ダライ・ラマ14世が「後継者」を語る日がついに...中国やチベットはどう出る? 転生制度の未来は?
中国の経済開発は「ありがた迷惑」、そもそも価値観が違う
中国政府はしばしば「チベットを発展させたのは中国だ」といった主張をする。これは、中国政府がチベット人の不満の源泉を「経済的に立ち遅れていることにある」と都合よく解釈しているためだ。
アリヤによると、中国政府は「中国語を学んで豊かになろう」という考えの下、チベット人に中国語教育を押し付けているという。
中国政府は「援蔵(チベットを支援する)」という名目で大量の漢民族をチベットに送り込んでいる。青海省西寧市とチベット自治区ラサ市をつなぐ青蔵鉄道が2006年に全線開通したのを筆頭に、チベットは急速に開発されたが、チベット人の文化や伝統を無視したものだったため、不満はむしろ高まるばかりだ。
特に近年、チベットではリチウムなどの天然資源やダムの開発が進んでおり、それに伴って深刻な環境汚染などが起こることも懸念されている(参考記事:水源独占、資源乱掘、先住民迫害...中国のチベット高原「破壊」がアジア全域に及ぼす影響とは)。
アリヤは「チベット人は自然や精神的な豊かさを重視している。金銭的・物質的な豊かさを求めていない」と述べており、中国による開発はチベット人にとって「恩着せがましいありがた迷惑」だとしている。
このように中国政府が好き勝手するチベットからチベット人が逃げようとしても、そう簡単にはいかない。複数のチベット人の証言によると、チベット自治区に住むチベット人には基本的にパスポートすら発給されないのだ。
海外渡航したチベット人が、その土地で中国にとって都合の悪いことを暴露したり、他国に亡命したりした場合、パスポートを発行した政府関係者が責任を問われてしまう。「保身が第一」の中国政府の役人がそのようなリスクを負うはずがない。
そのため、チベット人は差別と弾圧に苦しみながら中国で息をひそめて生きるか、命がけでヒマラヤの山を越えてインドやネパールといった国に亡命するしかない。
しかし、日本大学でチベットについて研究する大川謙作教授によると、2008年の暴動以降、国境警備は厳重になっており、不法越境による亡命の難易度は非常に高くなっている。実際、そのような形での亡命者の数は2008年以降激減しているという。