最新記事
自然災害

サンゴ×「ハチの巣」でハリケーンに勝つ!? 米国防総省も注目の「護岸プロジェクト」とは

Reef Rehab

2024年7月24日(水)15時31分
ジェフ・ヤング
サンゴ礁

MIHTIANDER/ISTOCK

<サンゴの白化現象が深刻なフロリダ州南部の海で、サンゴを育てつつ暴風雨の被害を防ぐ試み──「残されてた時間はあまりないが、まだ希望はある」>

米フロリダ州ノースマイアミビーチ沖200メートルほどの海中で、ある実験が行われている。人工岩礁「シーハイブ」を設置し、それを自然と組み合わせることで、海に面した町並みを暴風雨から守れるかどうか調べているのだ。

シーハイブは長さ3.5メートルほどのコンクリートの六角形の管をピラミッドのように積み上げたもので、水深9メートルほどの海中に沈められている。


断面がまるでハチの巣(ビーハイブ)のように見えることから、この名が付いた。管の部分に海水と波のエネルギーが流れ込むよう設計されているのがミソだ。

暴風雨対策の「シーハイブ」

白化現象によりサンゴ礁が大きな被害を受けているフロリダ州の海で、リアマンらは海中にシーハイブ(コンクリートの六角形の管)を沈める実験を行っている。シーハイブはサンゴの生育場所となるとともに、沿岸の建物を強い波から守る効果が期待されている COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOL

「穴が開いているから、波の高さとエネルギーをうまく和らげてくれる」と、マイアミ大学のディエゴ・リアマン准教授(海洋生物学)は本誌に語った。

リアマンら生物学者、社会学者、技術者らから成るチームが現在、取り組んでいるのが、こうしたコンクリートと自然物(今回はサンゴ)を使った護岸プロジェクトだ。

リアマンの専門はサンゴで、フロリダ州南部の海でサンゴを育てて復活させる研究を行っている。シーハイブは波消しブロック兼サンゴの生育施設として開発された。

研究室の実験では、シーハイブ単体でも波のエネルギーを60~70%弱められることが確認されており、暴風雨で砂浜が浸食されたり、海辺の建物が破壊されるのを防ぐ効果が期待できるという。

シーハイブを海に沈める様子

COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOLL

「そこにサンゴ、なかでも強い摩擦を引き起こすエダサンゴが加わると、(波消しの)効果が10~20%高まる可能性があるという実にクールな結果も得られた」と彼は言う。

「従来型のコンクリートの構造物単体より、(自然のサンゴと)組み合わせたほうがはるかに効果的だという考えが裏付けられた」

今年の夏は、シーハイブの真価を問われる季節になりそうだ。気候変動とエルニーニョ現象によって海水面の温度が高くなっており、サンゴへの悪影響が懸念される上に、ハリケーンの発生数も多くなるとみられているからだ。

米海洋大気局(NOAA)は今年6月から11月末までに熱帯暴風雨が最大で25個発生し、そのうちの4~7個は大型ハリケーンになる可能性があると警告している。

リアマンも、昨年に続いてこの夏もサンゴの白化現象が起きると考えている。

白化はサンゴの体内から、共生関係にある褐虫藻が出て行ってしまうことによって起きるが、極端に高い海水温によるストレスを受けたことが主な原因とされる。褐虫藻はサンゴに食べ物をもたらしており、白化が何度も起きればサンゴは死んでしまう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中