最新記事
EV

ただの「市場」ではない...中国EV企業を産油国が喜んで受け入れる本当の理由

A NEW FRONTIER

2024年7月3日(水)19時15分
ツーチョン・イエ(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院修士課程)
ドーハで開かれたモーターショー 中国製の高級EV

カタールの首都ドーハで開かれたモーターショーでは、中国製の高級EVが注目を浴びた CHRISTOPHER PIKEーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<中東の湾岸諸国は、2030年までに域内のEV使用を6倍に増やす計画。国外に活路を求める中国EVとはウィンウィンだが、産油国側には「EV輸出国になりたい」との思惑もある>

世界が二酸化炭素(CO2)排出ゼロを目指すなか、電気自動車(EV)産業は急成長を遂げている。高度な技術と膨大な生産能力を誇る中国のEVメーカーは急速に輸出を拡大。昨年は前年比99.1%増の100万台超のEVを国外に送り出した。

その中国企業がいま秋波を送っているのが湾岸諸国だ。脱化石燃料の流れをにらんで将来に備える豊かな産油国には巨大なEV市場が形成されつつある。需要の高まりに伴い、中国企業の存在感も高まり、クリーンエネルギー分野における中国と湾岸諸国のパートナーシップの深化を印象付けている。


中国はこの分野の後発組ながら、政府の振興策も手伝って、日本、ドイツ、アメリカといった自動車王国をしのぎ、今や世界のEV産業を主導。2022年には世界のEV生産の6割近くを占め、23年の第4四半期には中国のEV大手・比亜迪汽車(BYDオート)が販売台数でテスラを抜いて世界一の座に就いた。

注目すべきは、中国のEV産業が自国発のイノベーションと世界市場の制覇を目指す国家戦略のたまものにほかならないことだ。一方で、ここ数年中国のEV市場は供給過剰で価格競争が激化、EV各社は輸出に活路を見いだそうとしている。中国政府の戦略的プランもまた、EV各社の国外進出を強力に後押しする。

中国政府が目指すのは、世界のイノベーションを主導する成熟したハイテク大国になること。EV振興策もその一環だ。世界のクリーン交通需要は急拡大中で、この市場で高いシェアを獲得すれば、グリーン経済の牽引役として世界に君臨できる。

一方、湾岸諸国は脱化石燃料の流れをにらみ、経済の多角化を模索している。そのニーズは中国の利害と見事に一致し、既にウィンウィンの連携が進んでいる。

技術を格安で提供できる中国の強み

湾岸諸国の経済は化石燃料の輸出に大きく依存してきた。2021年のデータを見ると、化石燃料の輸出が軒並みGDPの4割以上を占めている。今の予想では世界の石油需要は30年代後半に減少に転じ、2050年までには日量2400万バレルに落ち込む見込み。この地域の国々にとって経済の多角化は至上命令なのだ。

課題達成の道筋は国によって違うが、この地域の国に共通する2つのテーマがある。1つは自国のCO2排出量を大幅に削減すること。そして輸出指向型のクリーンエネルギー産業を育成することだ。

その一環として、湾岸諸国は運輸部門のCO2排出を減らすため2030年までに民間と公共のEV使用を6倍に増やす計画だ。それにより、域内のEV市場は2029年までに104億2000万ドル規模に達するという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エヌビディアCEOと面会 輸出規制巡り

ビジネス

マイクロソフト、AI製品の売上成長目標引き下げとの

ワールド

モゲリーニ元EU外相、詐欺・汚職の容疑で欧州検察庁

ビジネス

NY外為市場=ユーロ、対ドルで約7週間ぶり高値 好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中