最新記事
EV

ただの「市場」ではない...中国EV企業を産油国が喜んで受け入れる本当の理由

A NEW FRONTIER

2024年7月3日(水)19時15分
ツーチョン・イエ(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院修士課程)

バーレーンの砂漠にある石油採掘施設

バーレーンの砂漠にある石油採掘施設 AP/AFLO

湾岸諸国は輸出向けのEV生産も目指している。例えばアラブ首長国連邦(UAE)のドバイはEVの製造拠点を新設。エジプト、タンザニア、セネガルなどへの輸出を計画している。国内のCO2排出ゼロにせよ、輸出指向型のEV産業振興にせよ、湾岸諸国が目標を達成するには技術開発と製造インフラの整備で外部の力を借りなければならない。助っ人を買って出たのが中国勢だ。

中国企業は急成長中の中東市場に商機を見いだし、素早く進出を開始。昨年BYDがヨルダンのディーラーとの提携を発表したほか、サウジアラビア投資省が中国のEV大手・華人運通とEVの開発・製造・販売で56億ドルの提携契約を交わし、UAEのアブダビも中国のEV大手・NIOの持ち株比率を20.1%に高めるため22億ドルの戦略的投資を行った。


湾岸諸国は西側のEVメーカーとも提携しているが、西側のライバルに比べ、中国勢には2つの戦略的な強みがある。1つは原材料の調達から完成品の輸送まで自社が管理するサプライチェーンでコスト削減を徹底していること。おかげで高度な技術を格安で提供できる。

例えばBYDは電池の製造から貨物船の運航まで全てをカバーした巨大なサプライチェーンを確保している。スイスの大手銀行UBSの調べによると、BYDの最高級車・BYDシールの部品の75%は自社製だが、テスラのモデル3の自社製比率は46%にすぎない。

「見えざる障壁」が得意という、もう1つの強み

もう1つの強みは参入のしやすさだ。国家資本主義的な湾岸諸国が設ける「見えざる障壁」に西側勢は手を焼くが、中国勢はこの手の障壁をくぐり抜ける術を心得ている。しかも中国のEV大手は既に欧州市場に参入済み。EUの厳格な認証制度をクリアすれば、中東進出は楽勝だ。

中国のEVメーカーが湾岸諸国で存在感を高めているのは、双方の利害が一致するからだ。湾岸諸国が費用対効果を考慮しつつ野心的な目標を達成するには、中国企業が提供するEV製造のノウハウと「規模の経済」が欠かせない。

中国のEVメーカーがサプライチェーンを構築し、製造能力を高めるために蓄積してきたノウハウは、湾岸諸国が経済の多角化を進める上で大いに役立つ。中国企業との提携を通じて、湾岸諸国は輸出指向型の再生可能エネルギー産業を育成し、国外市場に打って出られる。今は化石燃料の輸出大国として世界経済の行方を左右するほどの発言力を持つが、将来もクリーンエネルギーの輸出大国として同様の影響力を行使できるかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中