最新記事
戦場ウクライナの日本人たち

元福島原発作業員、起業家、ピカチュウ姿のボランティア...戦火のウクライナで生き抜く日本人たちの実話

JAPANESE IN UKRAINE

2024年6月6日(木)17時00分
小峯 弘四郎(フォトジャーナリスト)

夜明け前の待ち伏せ攻撃

ウクライナ戦争では、複数の日本人が義勇兵としてウクライナ軍と行動を共にしている。戦争初期の激戦地ハルキウ州イジュームの最前線から約10キロ離れた場所で22年9月に会ったのが、富岡さん(仮名)だった。

富岡さんは20代半ば、関東出身、前職は建築関係で22年5月にウクライナ入りした。自衛隊や他国の軍隊の経歴はなくウクライナ語やロシア語も分からず、ただウラジーミル・プーチン大統領とロシア軍の非道を許せないと感じたのが理由だった。

newsweekjp_20240606024201.jpg

富岡さんはプーチンやロシア軍への怒りから義勇兵になった KOSHIRO KOMINE

ポーランドからバスでウクライナへ。兵士の採用事情も分からないまま、バスを乗り継ぎ中部の都市ドニプロまで行き、情報収集した。SNSでウクライナに滞在する義勇兵志望の日本人とつながり、その後入隊を模索している外国人グループに合流。領土防衛隊に属する部隊に入隊して、イジューム南部、リマン近郊で任務に就いた。

入隊から約7カ月後には、当初いたメンバーは司令官、司令官補佐と富岡さんの3人だけになり、部隊で一番の古株になっていた。その間に仲間は戦死したか、負傷したか、何らかの理由で除隊していった。兵士の間で「スーサイド(自殺)ポジション」と呼ばれる、地形的に明らかに危険な塹壕でロシア軍の砲撃にひたすら耐えるだけの任務もあった。その過酷さに、思い描く戦争とのギャップを感じて帰国していった兵士もいた。

22年12月、2分隊(12人)で配置場所に向かう途中にロシア兵に襲撃をされた時は本当に死ぬと思った。夜明け前、歩兵戦闘車に乗って塹壕手前まで行き、武器や荷物と食料や水を降ろして塹壕に向けて歩き始めた途端、すさまじい数の銃弾が自分たちに向かってきた。薄暗い中でこちらからは敵がどこにいるかも分からず、応戦する余裕もない。

地面に身を伏せながら、目だけで辺りを確認すると近くに小さいくぼみを発見した。ウクライナの土は水はけが悪く粘着質で、車両が通った後はわだちがそのまま深い溝になり、冬になるとそのまま凍る。

そのくぼみまで匍匐(ほふく)前進で向かったが、頭上から絶えず銃弾が風を切る音が聞こえ、ときおり曳光(えいこう)弾もはっきり見えた。富岡さんが飛び込んだくぼみは深さ20センチ足らずで、体の一部が地面から出ている状態だ。「とにかく早く終わってくれ、ミサイルは飛んでくるな」と念じながら、じっとしていた。

数分後に銃声が鳴りやんだ後、とにかく全員でその場をすぐに去り、配置場所の塹壕へと向かった。銃撃戦は珍しくないが、待ち伏せは初めてだった。「今にして思うと、あの状況で負傷者がゼロというのは奇跡に近い」と、富岡さんは振り返る。

23年2月に一時帰国した後、3月に再度ウクライナ入りし、第204独立領土防衛大隊の砲兵として入隊した。後方からAGS‒17(グレネードランチャー)を撃つ任務のため、いくらか危険は減った。

「これまで何度も死にかけました。一緒に戦った多くの仲間が負傷、戦死しています。その分生き残っている仲間との絆が強くなり、個人的な思いで途中でやめるわけにはいかない」と、富岡さんは言う。「兵士として戦いに来たので、雑音は気にせずにやるべきことをやるだけです」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イランに先制攻撃と発表 米軍もと米紙報

ワールド

トランプ氏、アンソロピック技術の使用停止指示 「サ

ワールド

アングル:5年目迎えたウクライナ戦争、戦車が消えド

ビジネス

パラマウント、WBD買収へ 第3四半期完了の見通し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「内側」から食い尽くす...カナダの大学が発表
  • 4
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 5
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 6
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKI…
  • 7
    トランプがイランを攻撃する日
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 10
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中