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習近平はなぜ長期政権を目指すのか...中国共産党「非公開内部資料」から読み解けること

2024年5月28日(火)14時45分
大熊雄一郎 (共同通信社記者)

野心的な中国に日米欧は警戒を深めるが、習は西側先進国との関係悪化は国際社会での主導権を握るまでの一時的な痛みだと判断しているフシがある。

中国共産党の性質は毛沢東時代から変わっていない。習は路線を転換したというよりも、むしろ鄧小平時代に進んだ"脱毛沢東化"の流れを食い止め、元に戻そうとしている。

毛時代と大きく異なるのは、党の支配下にある中国がその野心を実行に移すための能力を、飛躍的に高めた点にある。


 

監視網

中国共産党が神のように崇めるロシア革命の指導者レーニンは、秘密警察「反革命・サボタージュ取り締まり全ロシア非常委員会」(通称チェーカー)を利用し、政権を脅かす「反革命」を取り締まった。

この警察機構は数々の悲劇を生むことになるが、中国共産党はこれよりも効率的に、かつダイナミックに「人民の敵」を捕捉するシステムを構築しつつある。

中国でインターネット検閲制度を創設し、「検閲の父」と呼ばれる方浜興は2011年、ネット検閲と、検閲を逃れようとする人々の「戦いは永遠に続くだろう」と指摘した。

習近平指導部はネット空間に照準を定め、独裁体制を揺るがしかねないと認定した言論を取り締まるため監視範囲を歯止めなく広げた。

中国でネット利用者は10億人を超える。短文投稿サイト「微博」や通信アプリ「微信」など独自の交流サイト(SNS)が次々と登場し、かつては厳しい言論統制下にある中国で、一人ひとりが発言権を持つ時代が到来するとの期待も一時的に膨らんだ。

中国政府は自由な言論空間を放置すれば、共産党の独裁体制を否定する「西側の価値観」が氾濫するとの危機感を抱き、当局に批判的な利用者を摘発するなど徹底的に取り締まる方向にかじを切った。

2017年にプロバイダーに対しネット利用者の実名登録や公安当局への協力を義務付ける
「インターネット安全法」が施行されたほか、SNSの限定された仲間内でつくる「グループ」のやりとりを監視し、警察を侮辱するなどの投稿をした場合に法的責任を問う制度が導入された。

微信を運営するIT大手、騰訊(テンセント)の関係者は「公安当局の指示があれば誰のチャット記録でも提出しなければならない」と話す。指導者を皮肉る投稿などを通報するシステムも導入されているという。

「私は自分が中国で綿々と続いてきた『文字獄』(言論弾圧)の最後の被害者となることを期待する」

かつてこう訴えたノーベル平和賞受賞者の民主活動家、劉暁波は2017年7月に当局の拘束下で"獄中死"した。劉を追悼する写真などをSNSに投稿した中国の活動家らは拘束された。

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