最新記事
クアッド

なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

A POTEMKIN ALLIANCE?

2024年5月27日(月)15時15分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
クアッド首脳会合後に会見する岸田文雄首相

クアッド首脳会合後に会見する岸田文雄首相(2022年5月) KIYOSHI OTAーPOOLーREUTERS

<「日米豪印戦略対話(クアッド)」ではなく、「スクワッド」? アメリカの熱が冷めてしまった理由、そもそも「インド抜き」に意味があるのだろうか>

インド太平洋地域の4つの主要な民主主義国、オーストラリア、インド、日本、アメリカの政府が2017年、休眠状態だった「日米豪印戦略対話(クアッド)」を再び活性化させると決めたとき、意図は明白だった。

4カ国の狙いは、中国の拡張主義に対抗する防波堤を築き、インド太平洋地域に安定した「力の均衡」をつくり出すことだ。しかし、今そのクアッドが漂流し始めている。

17年のクアッド復活の背景には、アメリカの外交政策の根本的な変化があった。アメリカは中国の関与路線を続けてきたが、自国の最大の貿易相手国が地政学上の最大の敵対国になったことに気付いた。

バイデン米大統領はトランプ前大統領と同様、日本の安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」を堅持する上でクアッドがカギを握る存在だと考えた。

そこで、それまで外相レベルで行われていたクアッドの会合を首脳レベルに格上げし、21~23年にかけて、オンライン会議も含めて立て続けに首脳会合を開催した。

しかし、このところ熱が冷めてしまったように見える。今年はアメリカが自国の大統領選に忙殺されることを考えると、年内に首脳会合が行われる可能性は小さい。

このような状況になった理由ははっきりしている。アメリカにとっての優先課題が変わったのだ。ロシアのウクライナ侵攻と中東情勢の緊迫化により、インド太平洋地域を外交・安全保障戦略の中核に据えることが難しくなった。

4月下旬に米議会で可決された緊急予算案では、ウクライナ支援が608億ドル盛り込まれたのに対し、台湾を含むインド太平洋諸国の安全保障関連の支援は81億ドルにとどまっている。

インド太平洋地域に振り向けることのできる予算に限りがある状況で、バイデンは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席との対話により、台湾での戦争を防ぎたいと考えているようだ。

4月には習との電話会談で、台湾海峡の平和を維持することの重要性を強調した。バイデンは、中国に対する融和路線を通じて、中国とロシアの同盟関係の強化も防げると考えているらしい。

問題は、中国への融和路線とクアッドの強化が全く相いれないということだ。バイデンが中国に相次いで閣僚を派遣し、昨年11月にアメリカで習と会談して以降、クアッドの首脳会合が開催されていないのは、偶然ではないのかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中