最新記事
ロシア

クリーンなイメージが強み? ロシア国防トップに経済学者が抜擢された理由

Who Is Russia’s New Defense Minister?

2024年5月22日(水)16時50分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)
プーチンとの会合に臨むショイグ前国防相(左)とベロウソフ新国防相(5月15日) VYACHESLAV PROKOFYEVーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

プーチンとの会合に臨むショイグ前国防相(左)とベロウソフ新国防相(5月15日) VYACHESLAV PROKOFYEVーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

<異例の国防相人事は戦争の長期化を見据えたプーチンの戦略>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5月14日、かつて経済担当の大統領補佐官を務めたアンドレイ・ベロウソフを国防相に任命した。 ウクライナ戦争の長期化を見据えて、ロシア経済が戦時体制を敷いていることを示す最新の兆候とみられる。

直近まで第1副首相の座にあったベロウソフを国防トップに据えるこの人事は、プーチンの通算5期目の大統領就任に合わせた内閣改造の一環として行われた。これに伴い、前任のセルゲイ・ショイグはロシア国家安全保障会議の書記に任命された。

ベロウソフは、戦争関連の支出が国家予算のほぼ3分の1という記録的な軍事費増大の最中に国防省の指揮を担うことになる。軍事畑のバックグラウンドを持たない経済学者で、プーチンの取り巻きの安全保障タカ派に属するわけでもない人物を戦時中に国防トップに抜擢するというプーチンの決断は、多くのアナリストを驚かせた。

ベロウソフの起用は、3年目に突入したウクライナ戦争の先行きに関するロシア政府の見解を物語っていると、ロシア安全保障の専門家マーク・ガレオッティは指摘する。「ロシアが守りを固めつつあるのは明らかだ。消耗戦になるため、国家資源を集中させる必要がある」

第1副首相時代のベロウソフは、ウクライナ軍に甚大な打撃を与えるドローン(無人機)の国内生産を強化する取り組みを監督していた。

政府の説明では、プーチンが文民エコノミストを国防相に抜擢したのは、防衛予算をより広範な経済の一部に組み込み、イノベーションを促進する効果を期待しているためだ。「現代の戦場ではイノベーションに寛容な者が勝者となる。文民が国防省を率いるという大統領の判断は、現時点では自然なことだ」と、大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は語った。

戦時下での国防相の任務は、将軍たちが必要とするリソースを確実に用意することだ。この責務を果たすには「会計監査役と政治的提唱者」の両面が必要で、「ベロウソフはまさに適任だ」と、ガレオッティは言う。

ロシアの支配層は大きく2つに分類される。1つは安全保障部門から抜擢されたタカ派。もう1つは国際的孤立と金融制裁の渦中でロシア経済を守ってきたテクノクラート(技術官僚)である。

ベロウソフはこの2つの世界にまたがる存在とみられている。ソ連式の教育を受けた経済学者で、2014年のクリミア併合を支持した。熟練のテクノクラートで、政府が経済運営に重要な役割を果たすべきと考える国家主義者でもある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中