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「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家の「早すぎる死」から政府は何を学べるか

TORIYAMA AND SOFT POWER

2024年4月25日(木)12時11分
トム・リー(米ポモナ大学准教授〔政治学〕)

鳥山自身は、中国の『西遊記』やジャッキー・チェンら中国系アクションスターからドラゴンボールシリーズの着想を得た。豊かな文化は政府の介入なしで国境を越え得るのだ。『ドラゴンボール』の続編『ドラゴンボールZ』で初めて日本のアニメに触れたというアメリカ人も多い。

1996年にアメリカで放送が始まると、全米の子供たちが毎週土曜日は早起きして、惑星ベジータから地球にやって来た孫悟空と仲間たちが地球の破壊をたくらむエイリアンたちから地球を守るのを見守った。同じ枠で『セーラームーン』も放送され、これら日本アニメが『アーサー王と正義の騎士』など欧米色の強いアニメに取って代わった。

ソフトパワーで世界を席巻

さらにアニメ専門のケーブルテレビ局カートゥーンネットワークが、アニメ放送枠「トゥナミ」で日本アニメを集中的に放映。日本のアニメならではのキャラクターやストーリーに夢中になったファンが、やがて日本に興味を持つようになった。

『ドラゴンボール』の悟空は孤児で異星人だが、明るく朗らかでくよくよしない性格と意志の強さで苦難を乗り越え、愛を見つけ、家族をつくり、地球の仲間たちと固い友情で結ばれる。ストーリーは世界共通、ヒーローが地球の平和を守るために戦う異星人という設定はDCコミックスの『スーパーマン』そっくりだ。

とりわけアフリカ系アメリカ人や中南米系アメリカ人をはじめ世界中のマイノリティーがこのアニメに引き込まれ、日本のソフトパワーは行く先々で影響を与えてきた。

ソフトパワーはハーバード大学の政治学者ジョセフ・ナイが提唱した概念で、文化や価値観の魅力で他の国々を魅了し、説得し、その行動に影響を与える能力を指す。もっともこれは漠然として数値化しづらく、効果も限定的だ。

アニメの魅力が好意的な外交政策や貿易協定につながるとは言い難く、『ドラゴンボール』が東アジアの力の均衡(バランス・オブ・パワー)を崩すとは考えにくい。それでも中国では共産党系タブロイド紙でタカ派路線で知られる環球時報が、中国のネット市民が鳥山と日本のポップカルチャーを崇拝しているという特集を組んだ。

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