最新記事
米政治

不倫口止め料巡るトランプ裁判が開始、有罪でも無罪でも「民主主義の勝利」と言い切れる理由

Important After All

2024年4月23日(火)13時19分
マーク・ジョセフ・スターン(スレート誌司法担当)
不倫口止め料事件の初公判に出廷したトランプと弁護士のトッド・ブランシュ

不倫口止め料事件の初公判に出廷したトランプと弁護士のトッド・ブランシュ(4月16日)MARK PETERSON-POOL-REUTERS

<不倫口止め料事件の起訴は無理筋と思われたが、大統領選前に裁判を行うこと自体に大きな意義がある>

ニューヨーク・マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事が昨年、ドナルド・トランプ前米大統領を起訴したとき、筆者は懐疑的だった。トランプは複数の別件でも起訴される見通しで、それらの事件に比べると法的根拠が弱いように思えたからだ。

だがこの1年で、それは見当違いだったことに気付いた。

今年4月15日にニューヨークで始まったトランプの裁判は、11月の大統領選前に行われる唯一の刑事裁判になりそうだ。トランプがニューヨーク州以外で抱えているほかの3件の刑事裁判は、残念ながら大幅に遅れている。要因はさまざまだ。腐敗した判事、最高裁の対応の遅さ、担当地区検事のスキャンダル......。ニューヨーク州の裁判は、ブラッグが公判前の準備をうまく進めたことも手伝って、実に隙がないものになった。

トランプが大統領選を前に、市民が構成する陪審員団の前で、自身の容疑の少なくとも一部について釈明することは、アメリカの民主主義にとって重要な意味を持つ。今の私は、この裁判が行われることを強く支持している。

軽犯罪が重罪に

格上げ事実関係を整理しておこう。2016年の大統領選の直前、トランプは元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズとの不倫関係をもみ消そうとした。そこで、長年の腹心で顧問弁護士だったマイケル・コーエンに、ペーパーカンパニーを通じて口止め料を支払うよう指示したとされる。トランプはその後、コーエンへの弁済として42万ドルを分割で支払った。この支払いを隠蔽するため、架空の弁護士費用として業務記録に記載したとされる。

業務記録の改ざん自体は、ニューヨーク州法では軽犯罪だ。しかし「他の犯罪の意図、あるいは犯罪行為の幇助や隠蔽の意図」を伴う場合は重罪となる。ブラッグは起訴状で、トランプは選挙法違反の意図を持って口止め料の支払いについて嘘を言っているため、重罪に当たると主張している。

私は当初、この主張に納得がいかなかった。トランプが違反しようとした選挙法が正確に何なのかが分からないからだ。ブラッグの当初の説明ではこの重要な点が不明確で、トランプの不正行為と連邦法または州法とを結び付けようとする彼の主張には無理があると思われた。

ふたを開けてみれば、そんなことはなかった。ブラッグは、トランプが少なくとも2つの選挙法(連邦法と州法)の違反を意図していたと、説得力を持って主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、4月は49.4 1年4カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中