最新記事
中東

「ラファ侵攻」を巡りアメリカとイスラエルの対立が激化、ネタニヤフが同盟国より優先するものとは?

Politics Over Peace

2024年4月2日(火)19時13分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

バイデンはイスラエルのガザ攻撃に「度を越している」と苦言を呈し、ロイド・オースティン米国防長官はイスラエルの国防相にラファ侵攻への懸念を表明。

イスラエル寄りで知られる米上院民主党のチャールズ・シューマー院内総務は連立政権内の極右のせいでイスラエルは国際社会の「嫌われ者」になりかねないと警告し、今すぐ総選挙を実施すべきだとまで主張した。

こうした状況下で、ネタニヤフは再調整に応じたとはいえ、一旦は代表団の訪米中止を宣言した。これまた「度を越した」対応である。

その数日前にアントニー・ブリンケン米国務長官との会談で、ネタニヤフはラファへの地上侵攻はアメリカの支援を得て実行したいが、「必要とあらば、単独でも実行する」と豪語。

だが代表団の訪米中止宣言は「アメリカなんかクソ食らえ。自力でやる」とたんかを切ったに等しい。

ネタニヤフはまた、ハマスが最新の停戦案を拒否したのは、アメリカが安保理決議案の採択で棄権したせいだとまで言い募った。ハマスはアメリカがイスラエルを見捨てたとみて付け上がり、一切譲歩しなくなった、というのだ。

これにはバイデンもたまりかね、国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調査官に記者会見で反論させた。ハマスはアメリカが安保理の採択で棄権する前に停戦案拒否を決めた、と。

「マサダの戦い」という教訓

カービーは言わなかったが、ネタニヤフの発言は明らかに常軌を逸している。ハマスが停戦案を突っぱねたことで、停戦成立を阻んでいるのはイスラエルではなくハマスだと主張できるのに、みすみすそのチャンスをつぶし、自分と自国の最も強力な盟友であるバイデンにかみついたからだ。

こうした態度に出るには訳がある。ネタニヤフは停戦に乗り気だと見られたくないのだ。国際社会の抗議を無視し、アメリカの忠告を聞かず、ラファ侵攻を断行する姿勢を見せつけたがっている。

誰に? 自分よりもはるかに強硬な極右の連立パートナーに、だ。

公の場でハマスに譲歩する姿勢をちらっとでも見せるか、机上の空論であれパレスチナ国家の樹立に言及しようものなら、必ずや連立パートナーの反感を買う。彼らが抜ければ政権は崩壊し、総選挙の実施を迫られる。

世論調査の結果が示すように、そうなればほぼ確実にネタニヤフの政治生命は一巻の終わりとなる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英データセンター投資、29年に年間100億ポンドに

ワールド

北朝鮮、極超音速兵器の実験成功と発表 「最先端兵器

ワールド

アップル、欧州委が是正策阻止と主張 DMA違反の申

ワールド

造船再生で1兆円投資基金の実現急ぐ、民間は3500
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中