最新記事
ロシア

銃乱射テロでプーチンはいかに弱体化を露呈したか

Putin Is 'Losing Control' in Russia: Dictator Expert

2024年3月28日(木)18時22分
ブレンダン・コール

テロの翌日、プーチンが発表したビデオメッセージより(3月23日)、場所は不明) Kremlin.ru/Handout via REUTERS

<米政府から事前に情報提供を受けつつ悲劇を防げなかったFSBの大失態で、ロシアを守る強い指導者のイメージが地に落ちた>

3月22日にロシアの首都モスクワ郊外のコンサート会場で起きたテロは、国民の「偉大な庇護者」というウラジーミル・プーチン大統領のイメージをはぎとり、「支配力の低下」を白日の下にさらしたと、ナチス・ドイツの独裁制に関する著書がある英ジャーナリストが論じた。

アドルフ・ヒトラーがいかにして権力の座に上り詰め、独裁支配を敷いたかをテーマに著作を発表してきたロジャー・ボイズは、今回のテロ事件を受け、英タイムズ紙に論説を寄せた。論説は冒頭で、民主主義体制より独裁制のほうが市民の安全が強固に守られると思うか、と読者に問うている。

『生き延びるヒトラー:第三帝国の腐敗と妥協』と『ヒトラーに誘惑されて』の共著者であるボイズは1980年代に英タイムズ紙の東欧特派員としてポーランドの首都ワルシャワに駐在し、自主管理労組「連帯」の民主化運動とそれをつぶすために敷かれた戒厳令下の情勢を伝えた。

今回発表した論説では、冷戦時代について触れ、プーチンは旧ソ連の最後の指導者であるミハイル・ゴルバチョフ、さらには前任者のボリス・エリツィン以上に強固に「母国を守れる」指導者として、政治的延命を図ってきたと述べている。

【動画】インタビュー中に表れたプーチン「体の異変」...いうことを聞かない足の動きに「何が起きてる?」

プーチンは2022年2月24日にウクライナ侵攻を開始したが、「ロシアの町々には(戦争の)しわ寄せはほとんど及ばず、偉大な庇護者としての彼の面目は保たれてきた」と、ボイズは書いている。だがそれも「今や地に落ちた」。

容疑者の顔に拷問の痕跡

22日夜クロッカスホールで起きた銃乱射テロは、自分はロシアの剣であり盾だというプーチンの主張を揺るがし、新たな脅威に対する保安当局の無防備さを暴露し、ウクライナ戦争についてのプーチン政権のレトリックの信憑性のなさを国民に印象付けたと、ボイズはみる。

2月16日に最も著名なプーチンの政敵であるアレクセイ・ナワリヌイが死亡し、さらにその後、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)がロシアを攻撃すべく大規模テロを計画しているとの情報を米当局が入手し、ロシアにも共有したにもかかわらず、プーチンがそれを無視したこと。「こうした一連の動きから、プーチンはもはや国民を納得させるナラティブ(語り)をうまく操れなくなっていると考えられる」と、ボイズは論じる。

「1つだけはっきりしているのは、わずか10日程前に信頼できる指導者を大統領に選んで、大船に乗った気でいたロシアの有権者が、今や先行き不安を抱いていることだ」

ロシア連邦保安局(FSB)は実行犯とみられるタジキスタン人4人をはじめ、テロ容疑で11人を逮捕したと発表。4人は起訴され、24日にモスクワの裁判所に出廷したが、彼らの顔にはむくみや痣など拷問を受けたような痕跡がみられた。

ロシア当局はこのテロ事件にはウクライナと西側の関与が疑われると主張しているが、ウクライナ政府と米政府は事実無根として退けている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シカゴ連銀発表の米小売売上高、9月は+0.5% 前

ビジネス

米BofAの7─9月期は増益、投資銀行業務好調で予

ワールド

米韓通商協議に「有意義な進展」、APEC首脳会議前

ワールド

トランプ氏、習氏と会談の用意 中国「混乱の元凶」望
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中