最新記事
ロシア

「最期まで諦めない」ナワリヌイだけではない、ロシアの反体制派に受け継がれる信念

It Wasn’t Just “Courage”

2024年2月27日(火)20時30分
エミリー・タムキン
ナワリヌイ「自分の国も信念も諦めない」だから、彼は最期まで闘い続けた

妻(右)や支持者と共にモスクワ市長選の立候補の届け出に向かうナワリヌイ(2013年7月) GRIGORY DUKORーREUTERS

<ナワリヌイが命を懸けて示した信念を行動で示し続ける勇気。それは、ソ連時代から受け継がれる反体制派によるレジスタンスのレガシーだった>

ロシアの刑務所当局は2月16日、収監されていた反汚職・反政権活動家のアレクセイ・ナワリヌイが死亡したと発表した。

翌日には彼の広報担当者が情報を確認したと認め、殺害されたと訴えた。

ナワリヌイの死は、プーチン政権にとって失敗を挽回する結果となった。

ナワリヌイは2020年8月に毒殺されかけたが生き延びた(その後、自らロシア当局者になりすまして諜報部員に電話をかけ、暗殺未遂の経緯を「報告」させた)。

ドイツで治療を受けた後、ナワリヌイはロシアに戻ることを決めた。

それはすなわち、投獄され、おそらく殺されることを覚悟していた。実際、21年1月に首都モスクワに到着すると同時に拘束され、そのまま刑務所に収監された。

今年1月にナワリヌイはフェイスブックの投稿で、帰国の決断について次のように説明した。

「自分の国も自分の信念も諦めたくなかった。どちらも裏切ることはできない。自分の信念に価値があるのなら、そのために立ち上がらなければならない。必要なら多少の犠牲もいとわない」

ナワリヌイのフェイスブックより

彼の決断と、その明確な理由は、彼が類いまれな人物だというだけでなく、ロシアのレジスタンスの歴史を受け継いでいる証しだ。

ナワリヌイは先人たちと同じように、勇気だけでなく信念から行動した。

自分の行為が唯一の選択肢だという信念の下、その選択の代償が次第に大きくなっても、信念を繰り返し行動で示した。

私はナワリヌイに直接、会ったことはない。しかし、今から10年前に、旧ソ連の人権派の反体制活動家にインタビューをしたことがある。

少人数だが重要なグループで、地下の著作や地上での抗議活動を通じ、自国の政府に自国の法律に対する説明責任を果たさせようとしていた。

私が取材で理解しようと努めたことの1つは、彼らがそのような選択をできる理由だった。

代償として刑務所の精神科病棟や強制労働収容所に送られ、体制を変えられる可能性があまりに低くても、どうして表に出て抗議活動をしようと決意できたのか。

ナワリヌイは13年にニューヨーク・タイムズ(NYT)のインタビューで次のように質問された。

「旧ソ連の反体制派には、闘うために自らを犠牲にする覚悟が常に見えたが、あなたは常に楽観的で、自分は勝てると思っているように見える。今も自信があるのか、それとも変わったか」

彼はこう答えている。

「反体制派は精神的に強靭な英雄だった。ソ連時代は、赤の広場でポスターを掲げれば必ず刑務所行き、それしかあり得なかった。ソ連がいつかは崩壊するだろうと理解はしていたかもしれないが、彼らの具体的な行動が影響を与えるとは、誰も思っていなかった」

「私を支持する人は大勢いて、私たちが勝つと確信している。間違いない。比較的短期間で起きるだろう。しかしそれが2年後にせよ22年後にせよ、私たちは闘わなければならない。私をソ連時代の反体制派と比べるのは大げさだよ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中