最新記事
ロシア

誰も真実を伝えないプーチンは、自ら作った「独裁の虜」

Putin Facing 'Authoritarian's Dilemma' Published Feb 05, 2024 at 6:36 AM EST

2024年2月6日(火)16時56分
ブレンダン・コール
プーチン

プーチンは意外にも軍事ブロガーを集めて懇談した。本当の戦況を知るためだったが今では…Sputnik/Artyom Geodakyan/Pool via REUTERS

<プーチンは実は真実を知りたがった。そのための情報公開組織も作った。軍事ブロガーと懇談もした。しかし今はたった一人。ISWは「独裁者のジレンマ」と呼ぶ>

ロシアの政府高官たちは、ウラジーミル・プーチン大統領に対して、ウクライナ戦争に関する悪い報告を上げないようにしている。米有力シンクタンクはこの状況を、「独裁者のジレンマ」と表現している。

ロシアの著名軍事ブロガー、セルゲイ・コリャスニコフは、ソーシャルメディア「テレグラム」のチャンネル「ゼルグリオ」に記事を投稿し、ロシアの官僚と国防省は、プーチンにわざと情報を隠していると述べた。

 

米ワシントンD.C.のシンクタンク、戦争研究所(ISW)が2月4日に発表したレポートによると、コリャスニコフがこうした記事を投稿したのは、ロシア軍の失態を隠蔽しようとする保守派のプロパガンダに対する反発かららしい。ロシア軍はドネツク州ノヴォミハイリフカ近郊で1月30日、カミカゼ・ドローンで自軍の戦車T-72と戦闘用車両を多数破壊した。それを隠蔽したのだ。

独裁だから得られない真実

コリャスニコフによると、ロシア国内にもこうした隠蔽体質を正そうとする動きがあった。ロシアでは2004年、「ロシア連邦社会院(Civic Chamber of the Russian Federation)」という市民による諮問機関が設立された。その目的は、たとえ否定的な知らせでも正確な情報を大統領に知らせるようにすることだったが、その試みは失敗した。メンバーたちが沈黙を選んだためだ。

それを受けたのはなんとプーチンだった。2011年に「全ロシア人民戦線」を設立し、正確な情報が上がってくるようにしようとしたが、この組織でもすぐにメンバーが真実を隠すようになってうまくいかなかったという。

コリャスニコフによると、ロシアの地方の役人たちもプーチンから失敗を隠そうとし、それを暴露しようとする人間を目の敵にしている。そのせいで、軍事ブロガーたちがウクライナ戦争の前線に足を運び、ありのままの戦況を伝えることはほぼ不可能になった。

コリャスニコフはまた、2024年3月のロシア大統領選挙が終われば、軍事ブロガーの逮捕が始まる可能性があると言う。プーチンが勝利する見込みの大統領選だ。

ISWは、コリャスニコフのブログ内容を吟味したうえで、「プーチンは、独裁者のジレンマに直面している」と言う。プーチンの独裁が完璧過ぎて、部下たちは決してその意に反することを言わない。「政権そのものが、組織的にプーチンを正確な軍事的・政治的な情報から遠ざける役割を果たしている」のだ。

プーチンは2023年6月、厳選した軍事ブロガーをクレムリンに招いて懇談会を開いた。そして、ドローンが不足していることや、ウクライナ南部のヘルソン州でウクライナ軍の撃退に失敗したことなど、ブロガーたちの懸念に耳を傾けた。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高

ビジネス

トヨタの11月世界販売2.2%減、11カ月ぶり前年

ビジネス

予算案規模、名目GDP比ほぼ変化なし 公債依存度低

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中