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若者が騙され、親中カンボジアで「監禁・暴行、臓器売買・売春」事件もあった...国際法の陥穽に陥った台湾人

2024年2月3日(土)18時00分
譚璐美(たん・ろみ、ノンフィクション作家)

カンボジア政府は中国と親密な関係にあり、台湾とは外交関係がないため、台湾政府はカンボジアに大使館やそれに準じる公的機関を設置していない。事件が発覚したのはひとえに民間支援団体の救済によるもので、これは「氷山の一角」だと推察された。

果たして何が起きたのか。台湾のSNSで広まった求人広告には、「ネット販売員募集、月給5万~10万台湾ドル(約23万~46万円)、未経験者可、研修制度あり。ビザ申請代行、食事・宿泊を手配、往復航空券支給」などの謳い文句があり、豪華なアパートでブランド品に囲まれた若者の写真が添えられていた。

勧誘されるのは主として台湾や香港の若い男性で、カンボジアへ到着後、空港で出迎えられ、車で向かった先はカンボジア南部のタイランド湾に面した港湾都市、シアヌークビルにあるアパートだった。他に東南アジアの若者たちもいたという。

台湾から到着した若者は、ここでパスポートと身分証明書を取り上げられ、監禁状態の中でネットを使った特殊詐欺を強要される。監視は厳しく、逃げ出しても現地警察は取り合わず、連れ戻されて暴行され、さらには転売されて臓器摘出や売買の犠牲にされる。

釈放された少数の人は、70万台湾ドル(約330万円)以上の「身代金」を支払って台湾へ戻ることができたという。

シアヌークビルとは、中国主導で建設された「一帯一路」構想のモデル事業で、カンボジアの経済特区だ。だが、コロナ禍で中国人観光客が途絶えてホテルやカジノが衰退する中、中国の大手企業が次々に手を引き、入れ替わりに中国の「蛇頭」(中国人の密航斡旋組織)や中国マフィアが手を組んで大掛かりな国際シンジケートを作り上げ、特殊詐欺や人身売買の一大拠点となった。

中国マフィアは、もともと中国在住の若者を勧誘・渡航させ、中国に住む富裕層から金をだまし取っていたが、コロナ禍で中国政府が海外渡航を禁止したことから、同じ中国語を話せる台湾人へターゲットを切り替えたようだ。

台湾新政権が若者の支持を失えば、親中路線が強まる可能性も

もっとも、この凶悪な詐欺監禁事件を、単なる大規模な国際犯罪として片づけるわけにはいかない(その後、この事件で台湾の詐欺集団幹部も逮捕されている)。

背景には、中国の「一帯一路」構想の構造的な欠陥と管理のずさんさ、無責任な経営体質がある。また、台湾を国際的に孤立させようとする中国の外交政策によって、台湾人がどこからも庇護されず、国際的に不利な立場に立たされていることが大きな悲劇を生む素地になっている。

台湾人の不利な立場は、出稼ぎ労働者も同じだ。

2021年、スペインを拠点とする人権団体「セーフガードディフェンダース」が公表した報告書(2021年11月30日付)によれば、2016年から2019年にかけて、海外で逮捕された台湾人600人以上が、中国大陸に強制送還された。

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