最新記事
台湾

若者が騙され、親中カンボジアで「監禁・暴行、臓器売買・売春」事件もあった...国際法の陥穽に陥った台湾人

2024年2月3日(土)18時00分
譚璐美(たん・ろみ、ノンフィクション作家)

例えば、台湾人がアフリカなどへ出稼ぎに行き、現地で中国人労働者とトラブルになると、現地警察に逮捕されて中国政府に通報される。中国政府が「自国民だ」と主張して、台湾人を犯罪者として強制送還してしまう。

中国から経済支援を受けている現地政府は見て見ぬふりで、外交関係のない台湾当局が「台湾人は台湾へ送還されるべきだ」と主張しても、なす術がない。

同人権団体は、「台湾人は中国にルーツがなく、家族もいない」ことから、中国で深刻な人権侵害をこうむるリスクがあり、「台湾の主権を弱めるために利用されている」と指摘する。

中国の習近平政権が、今後、台湾に対して締め付けを強化してくることは明らかだろう。

台湾総統選が終わった直後の1月17日から18日にかけて、総統選以後では最多となる中国軍機24機と中国軍艦5隻が、台湾海峡周辺で大規模な軍事演習を行った。1月26日には、中国の駆逐艦が台湾海峡の沿岸部を越えて航行し威嚇した。

国際外交の面でも、台湾総統選直後の1月15日、南太平洋の島国ナウル共和国は台湾と断交し、24日に中国と国交を樹立すると、「台湾は中国領土の不可分の一部であることを承認した」と関係文書に明記した。中国から資金援助があったことは明白だろう。

これで台湾と外交関係を結ぶ国は12カ国に減少した。民進党政権を敵視する中国の習近平政権は、台湾と外交関係を結ぶ国の切り崩しを加速させ、ますます国際的に孤立させようとしている。

今年、世界選挙イヤーの幕開けとなった台湾総統選で民進党が勝利したことは、世界の民主主義の行方を見極める上で、重要な1勝となった。だが今後、もし民進党政権が物価高と若者の就職難を解決できなければ、若者の支持を失うことになるだろう。

次期総統選では「第三の道」を行く民衆党が大幅に票を伸ばし、民主主義体制の一角が崩れるかもしれない。民衆党は今のところ社会福祉などを掲げているが、中国の軍事的威圧の下では親中路線に傾く可能性が十分あるからだ。

いずれにしても、台湾の若者や出稼ぎ労働者は、今後も外交関係のない国へ出かけて行かざるを得ないだろう。台湾政府の力が及ばず、主権国であるはずの中国からも保護されない彼らは、国際法の陥穽(かんせい)に陥っているのだ。

1月18日、台湾当局は日本の能登半島地震の被災者のため、市民から集められた寄付金が21億円を超えたと発表した。自腹を切ってはるばる現地まで炊き出しにやってきた台湾の人たちもいる。繊細で思いやりに溢れた台湾人の優しさが、本当に胸に染み入るようだ。

西側諸国は外交関係があってもなくても、民主主義を守ろうと奮闘する台湾の実情にもっと目を向け、世界で孤立する台湾人の救済に支援の手を差し伸べるべきではないか。

譚璐美(たん・ろみ)
ノンフィクション作家。東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。著書多数。最新刊は『中国「国恥地図」の謎を解く』(新潮新書)。


ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付

ワールド

訂正-韓国大統領、日米首脳らと会談へ G7サミット

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中