最新記事
ウクライナ戦争

【密着取材】「これだけの成果のためにどれだけ犠牲が...」 ウクライナ「反転攻勢」が失敗した舞台裏

WHY THE COUNTEROFFENSIVE FAILED

2024年2月1日(木)19時14分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

240206p51_RPO_03.jpg

雑貨屋には文民姿と軍服姿を組み合わせたゼレンスキーのブロマイドが(同11月、ザポリッジャ) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

「必要なのは軍隊の改革だ」

年が明け、ウクライナ政府は追加動員に関する法案を取り下げる事態に陥っている。招集令状を電子メールで送り付けるなどの手法が憲法違反に当たると指摘されたからだ。兵士不足の解消は見通せなくなった。

ウクライナ軍の現状を憂える声もある。ドネツク州北部にある第15連隊の歩兵、マキシム・アブラモブ(26)は「いま必要なのは軍隊の改革だ。訓練や選抜の方法を刷新する必要がある」と訴える。

マキシムは戦闘中にロシア軍の攻撃を受け、3度負傷した。右肘は激しく損傷し、ドイツで手術を受けた。いま部隊に戻り、ルハンスク州クレミンナで任務に就いている。「戦争は数だけそろえて勝てるものではない」と彼は言う。7割もの兵士が実戦を経験していない部隊もあるというウクライナ軍は、マキシムの提言に応えることができるだろうか。

240206p51_RPO_07v2.jpg

マキシムは右肘を負傷しドイツで手術を受けた(同11月) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

膨れ上がる戦費を賄っていけるのかも大きな課題だ。兵士の月給について教えてくれたのはドネツク州リマンの部隊に所属するオレクシー(36)だ。「ウクライナ軍は戦闘地と非戦闘地で給与に差をつけている。私のように前線で戦う兵士は、月に10万フリブニャ(約40万円)。南東部以外で任務に就いている兵士はその3分の1ほどだ」

オデッサのショッピングモールでマネジャーをしていたときの月給は3万フリブニャ(12万円)だったというオレクシー。国家統計局によると、昨年第3四半期の平均月収は1万7937フリブニャ(約7万円)だ。

月10万フリブニャについて、「命を懸けた仕事にしては安い」と、どの兵士も口をそろえる。しかし、国家破綻の危機にあえいできたウクライナにとって、平均月収の5倍以上に相当する給与を前線の兵士に払い続けるのは容易でない。ときどき耳にする給与の遅配が拡大すれば、厭戦ムードは一気に高まるだろう。

弓形に伸びる1000キロに及ぶ前線で、最大の激戦地がドネツク州にある。18世紀、最初に入植したアウディイの名が由来の街、アウディーイウカだ。昨年10月、ウクライナ軍の反転攻勢が失速したのを機に、ロシア軍はここに猛攻撃を仕掛けた。

アウディーイウカが包囲寸前の危機に陥ったとき、呼び寄せられたのがザポリッジャ攻撃軸を主導していた第47独立機械化旅団だった。破壊を免れたレオパルト2のほとんどもここに移動させられた。

その後、同じく配置転換を求められたのが、開戦後に軍都となったオリヒウの野戦病院で医療補助をしていたユーリ・イワノビッチ(48)たち人道支援のメンバーだった。

240206p54_btk01.jpg

アウディーイウカの野戦病院。帽子姿がユーリ(23年12月) COURTESY OF YURIY IVANOVYCH

ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中