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ウクライナ戦争

【密着取材】「これだけの成果のためにどれだけ犠牲が...」 ウクライナ「反転攻勢」が失敗した舞台裏

WHY THE COUNTEROFFENSIVE FAILED

2024年2月1日(木)19時14分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

砲撃を受けたレオパルト2

反攻を開始してから50日が過ぎた7月28日、ウクライナ軍の先鋭部隊、第47独立機械化旅団はザポリッジャ州オリヒウの基地を出発した。アゾフ海への進撃を目指し、その第一目標としていた町ロボティネは攻略の途中だった。50日間で押し返せた前線の距離は8キロ。アゾフ海まではまだ90キロもある。

ドイツ製の最新型戦車、レオパルト2などで編成された戦車部隊が並木に沿って進む。地元ザポリッジャで徴兵された大柄の兵士アンドリー(36)は、前を進む戦車との間隔を50メートルほどに保っていた。その時、前方の戦車が砲撃を受けたという。

「危ない!」と叫ぶや否や、今度は自分が乗っている戦車が被弾した。ロシア軍の攻撃ヘリによる銃撃が警戒されていたが、プロペラ音は聞こえなかった。偵察ドローンに見つかり、榴弾砲を撃ち込まれた可能性が高い。暗視装置の配備が遅れ、大型戦車の移動は夜間に、とのセオリーが徹底できなかったのが悔やまれる。

アンドリーは大やけどを負った。背中と右手も損傷し、大がかりな手術を受けた。翌月、部隊はロボティネを奪還したものの、その後、前線の位置は変わっていない。アンドリーはリハビリを続けながらこう訴える。「わずか、これだけの成果を上げるために、どれだけの犠牲が出たことか。議論していても始まらない。すぐに兵員を補充すべきだ」

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バフムート、オリヒウに続き、ウクライナ軍が第3の反撃地点として選んだのが、ベリカノボシルカからベルジャンシクへ向け南下する攻撃軸だった。

ここでは7月にスタロマイオルスケ、8月にウロジャイネを奪還して9キロほど前進した。ウクライナ軍はそのまま南進するかに見えたが、9月になって完全に停止してしまった。現場で何があったのか。

4つの海兵旅団と共に、ここで戦った部隊の1つが内務省傘下のアゾフ旅団だ。2014年、ドンバス紛争勃発時に義勇兵部隊としてマリウポリで創設された。志願兵としてアゾフ旅団に入隊したアレクサンドル・バレリエビッチ(47)は機関銃部隊の指揮官をしている。9月中旬、仲間の兵士との集合写真を前に、戦場での出来事について語り始めた。

「ある日、私たちの部隊は前進を始めた。すると敵は正確に迫撃砲を撃ち込んできた。どうやら待ち伏せされたようだ。その後、この兵士は地雷で吹き飛ばされた。こちらの若者は塹壕の中で待機していた。そこにロケットが撃ち込まれ死亡した。戦況は毎月、変化している」

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