最新記事
ウクライナ戦争

【密着取材】「これだけの成果のためにどれだけ犠牲が...」 ウクライナ「反転攻勢」が失敗した舞台裏

WHY THE COUNTEROFFENSIVE FAILED

2024年2月1日(木)19時14分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)
ウクライナ軍の反転攻勢はなぜ失敗したか

155ミリ榴弾砲を搭載したウクライナ軍戦車(2023年12月、シベルスク) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

<ゼレンスキー政権が挑んだ反転攻勢は失敗に。兵士や関係者の証言から見えたのは、戦力の分散による膠着と増え続ける犠牲だった>

「一緒に行くか?」

昨年12月、クリスマスツリーが飾られた兵舎で分隊長のユージン(39)が筆者に声をかけた。突然の呼びかけに「ドブレ(いいね)」と答え、泥だらけの軍用車に乗り込む。

ウクライナ東部ドネツク州バフムート地区のシベルスク市。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が対ロシアの反転攻勢における最重要地点としたバフムート方面軸の北部にある。昨年の本誌8月1日号で紹介したウクライナ軍の前線本部が9月に砲撃で破壊され、そのためシベルスクに駐留する部隊が、バフムート市の北側で展開される作戦を担っていた。

ミサイルが直撃し、穴だらけになった道を軍用車は高速で走る。向かうのはゼロ(ZERO)と呼ばれる戦闘地。軍人以外が近づくことは許されない場所だ。道の脇に焼け焦げた車が何台も放置されている。あらゆる建物が崩れ、骨組みがむき出しになっている。完全武装のユージンはマシンガンを構え、指示を出した。

「あそこに止まれ」

たどり着いたのはルハンスク州のビロホリウカという町だった。2022年7月にロシア軍に占領されて以降、激しい攻防が続いてきた。数百メートル先で、ウクライナ軍のロケットが火を噴いて連射された。草むらの向こうに155ミリ榴弾砲を搭載した戦車が確認できる。フランス製カエサルの最新モデルのようだ。

敵陣からの距離は1.5キロ。民間人の存在を気にせず撃ち合いが行われる、まさにゼロ地帯だ。14人の分隊を率いるユージンは戦況についてこう話す。「10月には300。足にロケットの破片が刺さった。9月には200。ロシアの戦車2台から攻撃を受けた。きのうの夜もすぐ近くにロケットが命中した」

300は負傷、200は戦死があったことを意味する隠語だ。部下のバーチャとグレゴリーに起きた被害をユージンは淡々と説明する。明日はわが身と、ここで一夜を明かした兵士たちがたばこに火を付けた。

240206p51_RPO_05v2.jpg

シベルスクの分隊長ユージン(同12月) PHOTOGRAPH BY TAKASHI OZAKI

昨年6月4日に始まった反転攻勢でウクライナ軍が挽回できた面積はごくわずか。逆に8月上旬、ロシア軍に2キロ押し返され、ビロホリウカの前線は止まったままだ。

この日の前日、12月4日付の米ワシントン・ポストが「ウクライナの反攻失敗」と題する記事を公開した。

記事によると、6月の大規模反転攻勢の開始に当たり、米英軍とウクライナ軍の将校は8回の作戦会議を行っていた。ザポリッジャのオリヒウにある前線基地からアゾフ海へ突破する攻撃に集中すべきだという米軍当局者。それに対し、ウクライナ軍の指導部は南東部3カ所での攻撃を主張した。その結果、戦力が分散し、膠着状態に陥ったという。

ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中