最新記事
スマートニュース・メディア価値観全国調査

日本の「分断」を追う10年プロジェクト始動──第1回調査で垣間見えた日米の差異

2024年1月31日(水)17時00分
山脇岳志(スマートニュース メディア研究所長)

マスメディアへの信頼とイデオロギー軸、日米で大きな差

最後に、マスメディアについて日米比較をしたい。まず、マスメディアに対する信頼度についてである。この設問は、日本のSMPP調査の設問を、米国のギャラップ社の信頼度調査の設問にあわせた(比較しやすいよう、ギャラップ社の設問を直訳した)。

「ニュースを十分かつ正確、公平に報道するという点において、あなたは新聞、テレビ、ラジオといったマスメディアを信頼していますか」という問いに対して、日本では「信頼している」(「とても信頼している」と「まあ信頼している」の合計)と答えたのは、リベラル、中間、保守ともに、70%前後だった。

これに対して、米ギャラップ社調査(2022年)で「信頼している」(「Great deal」と「Fair amount」の合計)と答えたのは、民主党支持層に限れば70%と高いが、無党派層では27%、共和党支持層では14%と、大きな差がある(図表14。2023年9月の調査では民主党支持層で58%・共和党支持層で11%までそれぞれ下落)。

SMPP:山脇ver4_14.jpg

マスメディアの信頼度をイデオロギー軸でみたときに、米国では大きな差がみられるのに対して、日本ではほとんど差がみられないのは興味深い。

この現象について、今回の共同研究者である小林哲郎・早大教授は「日本では、放送法などの制度的仕組みもあって、放送会社は『不偏不党』を意識せざるを得ない。大手新聞社も社是として、『公正な報道』や『不偏不党』をうたっている。また、米国は新聞社などの経営破綻も多く、全般的に報道の質の低下が顕著なのに対し、日本はまだそこまでには至っていない。受け手側である国民も、米国ほど政治的立場がわかれていないことも影響しているのではないか」と分析している。

また、マスメディア(テレビ、新聞など)の媒体ごとの接触をみてみよう。

ピュー・リサーチセンターの調査では、米国では、政治や選挙に関する主要な情報源としてFOXニュースをみる人のほとんどが保守層なのに対し、公共ラジオ放送のNPRのリスナーや、ニューヨークタイムズの読者のほとんどはリベラル層であるなど、多くの媒体で党派的な偏りがみられる(図表15)。

SMPP:山脇ver4_15.jpg

これに対して、日本では、朝日新聞をよく読む人の中で、わずかにリベラル層が保守層より多く、読売新聞やNHKでは保守層が多かった(リベラル29%、保守48%という日本全体の分布の姿とほぼ同じ)という程度の差はあるものの、米国のような極端な差はみられない(図表16)。

SMPP:山脇 ver3_16.jpg

以上が、今回のSMPP調査と、米国側の主な世論調査をもとに、「日米比較」を試みた結果である。

日本の「保守ーリベラル軸」は、安全保障や外交・防衛政策を中心に理解されており、経済政策とは相関しにくい。また、同性婚、移民問題などで米国と同様の傾向はみられるものの、米国ほどの差はない。さらに、マスメディアへの信頼度については、保守層とリベラル層の差が極端な米国に対して、日本ではほとんど差がみられないことが確認された。

ただ、上記のような日米比較だけをもって、日本における「分断」はたいしたことがない、と結論づけることはできない。今回のSMPP調査では、日本における分断とは、どこに存在したり、どういう形であらわれつつあるのかを、多角的に探っている。今後のこの連載コラムでは、調査分析に携わっていただいた各分野の専門家の方々から、仮説も含めた分析結果を示していく。

なお、SMPP調査は、今回で終わりではない。10年計画として、2年ごとに5回続けるところに特徴があり、研究者の方々と共に取り組む挑戦でもある。

日本における有意義な研究プロジェクトは、日本学術振興会の科学研究費(科研費)の助成を受けることが多い。ただ、調査を継続的に実施するためには、科研費を連続して獲得する必要がある。しかし、一回一回の申請の労力が大変なことや、継続性をアピールするだけでは連続して科研費を得ることができず、毎回の申請に新規性が求められるという悩みを、学者の方々からはよく聞く。

私たちの調査では、その時々のトピックに応じて質問項目の入れ替えは行うものの、ピュー・リサーチセンターの調査のように、同じ質問も繰り返して聞く予定である。そうした一見、地味な行為や分析の継続によって、表層からは見えにくい分断の進展(あるいは分断の緩和)の実相が、次第に明らかになる面もあるだろう。今回の一度限りの「結果」だけでなく、今後の「継続」によってあぶり出されてくる「変化」に注目いただけたら幸甚である。

■本連載の記事一覧はこちら

■SMPP調査・第1回概要


山脇岳志(やまわき・たけし) スマートニュース メディア研究所 所長

兵庫県出身。京都大学法学部卒。1986年、朝日新聞社に入社。地方支局で、事件や地方行政などを担当後、東京本社経済部や企画報道室で、金融や情報通信分野の当局・業界を担当、調査報道にも従事。1995年〜96年、英オックスフォード大学客員研究員(Reuter Fellow)。2000年〜03年、ワシントン特派員。帰国後、論説委員、経済部次長。その後、グローバルで多様な視点を重視する別刷り「GLOBE」の創刊に携わり、編集長を務めた。2013年〜17年、アメリカ総局長。2016年、ドナルド・トランプ氏が当選した大統領選をカバーした。編集委員として定期コラムを担当した後、退職。2020年4月、スマートニュース メディア研究所の研究主幹に就任。2022年4月より現職。京都大学経営管理大学院特命教授、帝京大学経済学部客員教授を兼務。

著書に、『郵政攻防』(朝日新聞社)、『日本銀行の深層』(講談社文庫)など。編著に、『メディアリテラシー 吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』(時事通信社)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)など。

ニューズウィーク日本版 トランプのイラン攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月10号(3月3日発売)は「トランプのイラン攻撃」特集。核・ミサイル開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。アメリカとイランの全面戦争は始まるのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、2月理事会でインフレ下振れ予想 金融政策は

ビジネス

ECB、政策「会合ごとに判断」 中東緊迫化でも既定

ワールド

欧州各国、安全確保やキプロス保護へ海軍派遣 イラン

ビジネス

米1月輸入物価、0.2%上昇 エネルギー安を資本財
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 9
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中