最新記事
ASEAN

900キロを実際に走行 ...インドシナ半島の大動脈「南部経済回廊」から見たASEANの連結性強化

2023年12月15日(金)16時00分
※JICAトピックスより転載

日本の協力で2015年に完成したカンボジアのメコン川に架かるつばさ橋においても、橋が架かる以前の渡河手段だったフェリーが1日5,000台程度(乗用車換算)の輸送能力だったのに対し、橋の開通により、1日の交通量が約15,000台(同)を記録しました。ベトナムとカンボジア、そしてカンボジアとタイの2国間における道路整備の状況および交通量の増大から、物理的連結性は飛躍的に向上していると話します。ただ一方で、現状では、ベトナム、カンボジア、タイの3か国が一体となってモノや人の往来が拡大する南部経済回廊全体としての機能は十分に果たせていないと小泉次長は指摘します。その要因の一つとして、越境手続きの煩雑さなど通関制度の整備が、期待どおりには進んでいなかったことを挙げました。

jicaasean_12155.jpg

プノンペンとタイ国境を結ぶ国道5号線。整備前(左)と整備後(右)

jicaasean3_2.jpg

(左)2015年に完成したつばさ橋 (右)2000年から4年間カンボジア事務所に駐在した経験をふまえながら語る社会基盤部の小泉幸弘次長

越境時に確認された連結性の課題

貿易円滑化や税関分野などを担当する徳織智美JICA国際協力専門員は、越境手続の現状について次のように話します。

「各国で税関や出入国管理局の電子化は進んでいるものの、申告書類の原本提出も求められており、民間企業などの回廊ユーザーにとっては二度手間になっています。また、貿易手続きを一つの窓口で一括して行う『シングルウィンドウ』を通して関係省庁間システムはある程度連結されていますが、国内で完結しており、隣国との連結までは進んでいない状況です」

また、カンボジアは国境外通関(Off-Border Clearance)を導入しており、通関手続きを国境ではなく近隣にある経済特区(SEZ)やドライポート(内陸港)などに移動して行う必要がある一方、ベトナムは国境上で対応し、タイも国境上で対応するものの、人と貨物を別の場所で手続きする必要があるなど、3か国で国境の役割や形態が異なっている点も指摘します。

「アフリカでは地域統合がそれなりに深化しており、越境する際に両国それぞれで行われていた通関や出入国などの手続きを一か所で行えるようにする「One Stop Border Post(OSBP)」の導入が進んでいます」と、制度面での連結性はアジアよりアフリカの方が進んでいる点に触れ、アジアの現状に即した貿易円滑化の在り方を模索する必要があると徳織専門員は話します。

jicaasean_56.jpg

(左)徳織智美・JICAガバナンス・平和構築部国際協力専門員 (右)モクバイ国境(ベトナム)からバベット国境(カンボジア)に入る中間地点(No man's landという)で、カンボジア国境の開門を待つトラック。書類の不備などがあれば、手続きに数日を要することもある

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中