最新記事
世界のキーパーソン2024

「2024年のインド」とモディ首相を読み解く4つのキーワード

2023年12月21日(木)11時00分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)
インド

ILLUSTRATION BY EMAD NOUR/SHUTTERSTCOK

<経済成長を武器にヒンドゥー至上主義を振りかざすインド首相は、国際社会でも「大国」としての利害を声高に主張する。本誌「ISSUES 2024」特集より>

インドのナレンドラ・モディ首相の世界観と2024年における行動は、「イスラム教」「イギリスによる旧植民地支配」「インドナショナリズム」「国力の増大」という4つのキーワードから読み解くことができる。

デリー南郊には、クトゥブ・ミナールという高さ72メートルの塔がそびえ立っている。12世紀末にインドで初となるイスラム王朝のスルタンが建てたもので、建設には破壊されたヒンドゥー教寺院の石が使われた。これは、イスラム教徒による征服と支配の象徴だ。

西部ムンバイのアラビア海沿いには、19〜20世紀にかけてのイギリスの建築様式で建てられた高級ホテルのザ・タージ・マハル・パレス・ムンバイや、イギリス国王でインド皇帝でもあったジョージ5世の1911年インド訪問を記念して建てられたインド門が並ぶ。いずれも大英帝国とそのインド支配の強大さと栄光を今に伝える。

一方、ヒンドゥー教の聖地ハリドワールでは、たそがれ時になると10万人もの信徒たちがガンジス川のほとりに集まり、ヒンドゥー教の火の儀式を行う。人々は両手を上げて、「内なるエネルギーを目覚めさせ、富を与えたもうた」神に対して歌をささげるのだ。ヒンドゥー教徒が国民に占める割合は70%を超える。

インドは独立以来、世俗的な多宗教・多民族国家だったが、モディの与党インド人民党(BPJ)にとって、インドはヒンドゥー教の国だ。イスラム王朝の成立に始まる従属と融合の1000年を経て、ヒンドゥー教徒はようやく、自分たちこそがインドの文化と宗教であると規定し、「インドの力」を思いどおりに振るえるようになったというわけだ。

内政面では2024年、BPJのヒンドゥトバ(ヒンドゥー至上主義、ヒンドゥー教こそインド文化と社会の基盤と見なす思想)はますますナショナリスティックに、そして狭量になり、今後もモディの政策を形づくっていくだろう。イスラム教徒やイギリスによる支配の残した「悪影響」に対するBPJの考え方によっても、政策は左右される。

モディはBJPのヒンドゥー至上主義に基づく政策をメディアがつついたり、誰であれ異議を唱えたりするのを好まない。2023年1月に英BBCは、グジャラート州で02年に起きた暴動でイスラム教徒を中心に約1000人の死者が出た問題について、州首相だったモディとBPJの関わりを問うドキュメンタリーを放送。モディ政権は内容を批判。その数週間後、インド各地のBBCのオフィスは税務当局の家宅捜索を受けた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 5
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 6
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 7
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 8
    米フーターズ破綻の陰で──「見られること」を仕事に…
  • 9
    メーガン妃とヘンリー王子の「自撮り写真」が話題に.…
  • 10
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中