最新記事
日本社会

日本の警察官・裁判官の女性比率の低さが性犯罪の事件化を妨げる

2023年11月29日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
イギリスの女性警官

日本の警察官の女性の割合は7.7%、裁判官は18.7%しかない Juiced Up Media/Shutterstock

<世界各国と比較すると、日本の警察官・裁判官の女性比率の低さはいずれも最低レベル>

刑法改正により、強制性交等罪が不同意性交等罪に変わった。字のごとく同意のない性交を罰することだが、明確な拒絶や激しい抵抗がなくても、「予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕」「虐待に起因する心理的反応」により同意しない意思の形成が困難であったと認められる場合、この罪は成立する。

あまりの恐怖に体が凍り付いてしまった、ないしは虐待等による無気力で拒絶の意思を表明できず、されるがままになったという場合も、相手の罪を問うことができる。これまでは加害者の暴行・脅迫、被害者の必死の抵抗という要件が壁になり、立件が阻まれることが多かったが、今後はそうでなくなる。


しかし法律の条文が変わっても、それを運用するのは人間だ。具体的には、最初に被害者の訴えを受け付ける警察官、起訴して裁判にかけるかを判断する検察官、そして有罪・無罪の判決を下す裁判官だ。この人たちの考えが旧態依然では、現実は変わりそうにない。

よく言われるように、日本の警察や司法は「男社会」だ。やや古いが2014年の女性の割合を見ると、警察官は7.7%、裁判官は18.7%しかない(国連薬物犯罪事務所)。他の主要国の数値と対比すると<表1>のようになる。

data231129-chart01.png

他の主要国の警察官、裁判官の女性比率は日本より高い。スウェーデンやオーストラリアでは、警察官の3割が女性だ。裁判官を見るとドイツやスウェーデンは4割、フランスは7割近くになっている。

右端には、レイプで有罪判決を受けた人の数(国民10万人あたり)を挙げている。日本は年間0.28人と少ないが、これが現実を表していると考える人はいないだろう。闇に葬られている事件が多いことは想像に難くない。この点については前に書いた(「法廷で裁かれる性犯罪はごくわずか」本サイト、2020年2月26日)。

筆者の試算によると、推定事件数の95%が警察の捜査にすら至っていない。被害者が被害を訴え出るのをためらう、警察が被害届の受理を渋ることなどによる。伊藤詩織氏の著書『Black Box』(文藝春秋)を読むと、警察を動かすのがいかに大変か分かる。男性警官に事件時のことを根掘り葉掘り聞かれ、当時の状況を再現させられ、あげく被害届を出さないよう迫られる。被害を訴え出るのも勇気が要るが、被害届を受理させるのも難しい。警察が「男社会」であることも一因だろう。

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、2日に予算教書公表 環境・対外援助など

ワールド

イスラエル、シリア大統領官邸付近を攻撃 少数派保護

ビジネス

JAL、今期の純利益7.4%増の見通し 市場予想上

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中