最新記事
インドネシア経済

今さら「従属理論」を持ち出すインドネシアの野心とは?...「グローバルノース」への対抗策「輸出制限」がとても危険な理由

BREAKING OUT

2023年10月10日(火)09時25分
ファジャル・ヒダヤット(トレードオフ・インドネシア業務執行社員)
ジョコ大統領

ジョコは原材料輸出に依存する従来のモデルを拒絶する AJENG DINAR ULFIANAーPOOLーREUTERS

<原材料輸出の制限に踏み切る、ジョコ大統領の危うい皮算用について>

どの国にも経済発展の権利があり、その権利は尊重されねばならない──

5月に広島で開かれたG7サミットに招かれたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領はそう語り、いわゆるグローバルサウスの諸国が1次産品(原材料)しか輸出できない現状はおかしい、植民地時代の悪しき慣行は捨てるべきだと強調した。

インドネシアは近年、原材料輸出への依存を徐々に減らす一方、別の形の公正かつ互恵的な国際関係を模索している。

そして、より付加価値の高い産業を育成するため、G7諸国の協力を得たいと考えている。

実際、今のインドネシアはその方向に動き出しており、手始めに2014年に未加工鉱物(ニッケル鉱石を含む)の輸出を禁じ、国内での精錬・加工を義務付けた。

17年に緩和されたが、20年1月にニッケル鉱石が再び禁止に。これにEUが反発し、WTO(世界貿易機関)に異議を申し立てており、EU加盟国以外のG7構成国(アメリカ、カナダ、イギリス、日本)もEU支持の立場だ。

WTOは昨年11月、この件でインドネシアの措置を協定違反とする裁定を下したが、同国は直ちに上訴した。ジョコはスズやボーキサイト、銅なども、今後は鉱石のままの輸出を禁止すると表明している。

どうやらジョコ政権は、第2次大戦後に台頭した「従属理論」を21世紀の今に復活させたいらしい。

この学説はアルゼンチンの経済学者ラウル・プレビッシュらが提唱したもので、途上国は植民地時代から続く世界の政治・経済的システムによって抑圧され、大切な資源が貧しい国から豊かな国へと吸い上げられていると論じた。

プレビッシュは中南米諸国の事例を検討し、価格変動の激しい1次産品の輸出に依存している限り途上国は先進国への「従属」から抜け出せないと論じ、その状況から脱するには国内経済の工業化と多様化が必要だと説いた。

つまり、今の経済システムではグローバルノースが「中心」であり、対するグローバルサウスは「周縁」で非熟練工を酷使し、1次産品を中心部に送り出すのみ。付加価値の高い製品への加工は中心部で行われるから周縁部の開発は進まず、豊かになるのは中心部だけという構造的不均衡が生じる。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中