最新記事
中東

ハマス、奇襲作戦を2年前から周到に準備 戦闘員だけでなく指導者の多くも計画を事前に知らされず

2023年10月10日(火)14時19分
ロイター
ガザ地区からイスラエルに向けて発射されるロケット弾

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、今回のイスラエルに対する大規模な攻撃を仕掛けるにあたり、計画がイスラエルによって察知されるのを防ぐため、2年も前から入念な偽装工作を行っていた。写真は7日、ガザ地区からイスラエルに向けて発射されるロケット弾。ガザ地区で撮影(2023年 ロイター/Ibraheem Abu Mustafa)

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、今回のイスラエルに対する大規模な攻撃を仕掛けるにあたり、計画がイスラエルによって察知されるのを防ぐため、2年も前から入念な偽装工作を行っていた。ハマスが戦闘を望んでいないと思い込んだイスラエルは、周到に仕組まれたな奇襲作戦によって完全に虚を突かれた。

ハマスに近い消息筋は1973年の第4次中東戦争以来の規模となった今回の攻撃について「イスラエルに対して戦闘準備が整っていないという印象を与えた」と偽装工作の内幕を明かした。「大規模な作戦を準備する一方、イスラエルとの戦闘や対立を望まないという印象を広め、イスラエルを欺くため、数カ月間にわたり過去に例のない情報戦を展開した」という。

イスラエルはユダヤ教の安息日と宗教的祝日に合わせて行われた今回の攻撃が、事前に察知できなかったことを認めている。

イスラエル国防軍の報道官は「われわれにとっての9.11だ。してやられた。われわれは完全に意表を突かれ、敵は空からも地上からも海からも、多くの地点に素早く襲来した」と振り返った。

経済重視を偽装

ハマスに近い情報筋によると、事前準備のうち特筆すべきものの一つは、ガザ地区に模擬のイスラエル人入植地を建設して襲撃訓練を行ったことで、作戦のビデオまで作った。イスラエル側はそれを認識していたが、それでもハマスが対立を望んでいないと信じ込んでいたという。

ハマスは戦闘訓練を行う一方で、ガザ地区の労働者がイスラエル側で仕事に就くことできるようにする政策を重視し、新たな戦争を始めることには関心がないのだとイスラエルに思い込ませようとした。「イスラエルに対して、軍事的な賭けに出る準備ができていないというイメージを植え付けることができた」という。

イスラエルはハマスとの2021年の戦闘以降、ガザ地区のパレスチナ人がイスラエルやヨルダン川西岸地区で働けるように何千もの許可証を与えるなど経済的利益を提供することで、ガザ地区に基本的な経済的安定をもたらせようとしていた。イスラエル側では建設、農業、サービス業の給与が、ガザ地区の10倍になることも珍しくない。

別のイスラエル軍報道官は「(ガザ地区から)働きに来て金を持ち帰ることで、一定の落ち着きが生まれると信じていた。われわれは間違っていた」と悔やんだ。

イスラエルの治安当局筋も、ハマスの偽装工作の術中にはまったことを認めた。「彼らはわれわれに金が欲しいのだと思い込ませた。そして、演習や訓練を続け、戦闘に打って出た」

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NATO事務総長、国防費拡大に新提案 トランプ氏要

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日会談 ワシントンで

ビジネス

FRB利下げ再開は7月、堅調な雇用統計受け市場予測
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中