最新記事
BOOKS

彼氏は仕事熱心で理想的だった、ギャンブル癖を除けば。彼女も沼に入り込み「もう何も感じない。でも、やめられない」。なぜ依存してしまうのか

2023年9月20日(水)23時00分
印南敦史(作家、書評家)


「ギャンブル依存は科学的に認められた病気です。ギャンブル産業は、「依存症なんかない、個人の問題だ」と強弁していますが、そのままでは解決の糸口は見つからない。どんな産業でも、発展や拡大をしていけば、負の側面や副作用が出てくるもの。だから、ギャンブル依存の問題から目を背けず、それが病気であるという認識をしっかりと持ってほしい。その上で、一緒に解決策を探っていきたい。私たちは、「ギャンブルなんか、なくなればいい」なんて、一度も言ったことはないんです。(86〜87ページより)

ギャンブル依存は疾患であり、患者の心の隙をついて入り込んでくるもの。しかもそこには、ギャンブルを容認する日本社会の構造も影響してくる。だからこそ、ギャンブル産業だけに責任を押しつけても意味はないのだ。


「どこにでも当たり前にある病気」と誰もが認識して、それを包容できる社会にしていくことが、患者を早期に回復させられる唯一の方法かもしれない。
 予防できるなら予防する。治るのだったら、治せばいい。病気とはそういうものだ。(87ページより)

ギャンブルに関心がないとはいえ、「試しに......」という程度の気持ちでパチンコをやってみた経験は私にも何度かある。

そのたび自分の「ギャンブル運のなさ」を実感したためハマることもなかったわけだが、それでもときどき、「なにごとも経験なのだから、やったことのない競馬や競艇を一度くらいはやってみてもいいかな」と感じたりすることはある。

結局は考えるだけでやらないのだけれども、もしかしたらそこが、ギャンブル依存への入り口なのかもしれない。本書を読んだら少しだけ、そんなことを感じもした。

ギャンブル依存――
 日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか
 染谷 一 著
 平凡社新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

政治圧力で独立性揺らぐFRB、今週FOMCは0.2

ワールド

クックFRB理事、住宅ローン申請違反の証拠なし 市

ワールド

カナダ競争局、英アングロと加テックの合併を調査

ワールド

インド貿易赤字、8月は264億ドルに縮小
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中