最新記事
東南アジア

タイ、大連立で22日にも新首相選出へ タクシン元首相が帰国、政界に大転換点

2023年8月20日(日)13時26分
大塚智彦
タイ貢献党が首相候補として推す実業家セター・タビシン氏

タイ貢献党が首相候補として推す実業家セター・タビシン氏 Thairath Online / YouTube

<2014年のクーデター以降続いた政治的混乱は収束に向かうのか?>

5月の総選挙から約3カ月を経てもなお新首相が決まらないタイで、8月22日に国会で首相選出選挙が再び行われる見通しとなり、新首相が決まる可能性が極めて高くなってきた。それに伴い海外に滞在中のタクシン・チナワット元首相も22日にタイに帰国するということで、タイ政界は大きな転換点を迎えようとしている。

タイでは首相選出選挙について「選挙で第1党となった前進党のピタ党首を国会が首相候補資格を認めなかったことが違憲である」との訴えについて審査していた憲法裁判所が8月16日に「訴えを受理しない」との判断を下した。これを受けて下院のワンムハマドーノ議長は22日に上下院で首相を選出する投票が実施されるとの見通しを示した。

こうしたなか、ピタ党首の首相選出に失敗した前進党に代わって第2党に躍進した「タイ貢献党」が中心となって新たな野党連合を形成。首相候補として擁立するタイ貢献党の実業家セター・タビシン氏への投票で一致した。

上下院の過半数が首相選出には必要だが、前進党は野党連合から離脱、セター氏への投票拒否を表明したことから過半数には依然として不足する状態となった。

野党連合が旧与党勢力との連立に踏み切り

このためタイ貢献党はプラユット首相が立ち上げた新党「タイ団結立国党(UTN)」、プラユット政権を支えた「国民国家の力党(PPRP)」を含む旧与党勢力との連立にも踏み切り、何とか過半数を確保できる見通しとなった。

総選挙ではピタ党首の前進党が下院500議席のうち151議席を獲得して第1党となった。次いでタクシン元首相支持のタイ貢献党が141議席、第3党のタイ威信党71議席、プラユット政権与党の国民国家の力党40議席、プラユット首相が立ち上げた新党タイ団結立国党36議席となっている。

この結果、下院では前進党を除いて288議席がタイ貢献党との連合に加わることになり、その結果過半数を上回ることとなった。あとは指名議員250議席の上院からどれだけタイ貢献党が擁立するセター氏への支持が得られるかが焦点となる。

上院議員はプラユット政権時代に指名された議員で親軍、保守でプラユット首相支持派が多い。プラユット首相のタイ団結立国党が大連立に参加することになったことから相当数の票がタイ貢献党のセター氏支持に回ることが予想され、最終的に上下院で750議席の過半数を獲得してセター氏が新首相に選出される公算が強くなっている。

タイでは前進党のピタ党首を首相候補とする議会選挙を7月13日に実施したが、前進党が公約として掲げた王室改革という「タイ最大のタブーへの挑戦」に反発する上下院の親軍派、保守派議員の反対多数で否決された。

さらに7月19日に再度ピタ党首の首相選出を企図した前進党に対して、「立候補資格がないのでは」との異論が出て憲法裁判所が可否を判断する事態となっていた。

その後8月4日にも予定されていた再度の首相選出選挙も憲法裁の審理結果が出ていないことなどから無期限延期となり、タイ政治は混迷の度を深めていたのだった。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

グローバルな経済環境、今後も厳しい状況続く=英中銀

ワールド

モスクワ軍事パレード、戦闘用ドローン公開 ウクライ

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ビジネス

三井住友銀行、印イエス銀の株式取得へ協議=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 8
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中