最新記事
日本政治

「サラリーマンの税金は安すぎ!?」 岸田政権が給与所得控除の引き下げを画策、年収400万円で20万円の負担増か

2023年8月21日(月)18時00分
山田真哉(公認会計士・税理士・作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

会社員の経費は概算でOK

そもそも「給与所得控除」とは何でしょうか。

会社員として働く場合、スーツ代や通信費用、勉強するための費用などが必要です。

自営業者の場合は必要経費を収入から引くことができますが、会社員は費用の範囲が不明確になりがちなので、「概算でこのくらい引いてOK」という額が定められています。これが「給与所得控除」です。

会社員でも実額を控除できる「特定支出控除」という制度もあります。ただ、処理が面倒な割にメリットがないため、ほとんど使われていません。給与所得者約6000万人のうち、特定支出控除の利用者は約1000人程度と言われています。

「収入の3割」が控除されている

では「給与所得控除」はどのように決まっているのでしょうか。

基本的には、収入に応じて、55万~195万円を給与所得控除として収入から引くことが認められています。

給与所得控除の水準は大体「収入の3割」が目安とされていて、年収が400万円より低い場合は「収入の4割」、高い場合は「収入の2割以下」くらいになります。

また、年収が850万円を超えると、給与所得控除は195万円で打ち止めとなり、それ以上は上がりません。

図表2 給与所得控除とは

筆者作成

実は大正時代に作られた制度

このように、会社員には税務申告の自由がありません。税金は給与から天引きされ、かかった経費を控除できません。

しかも会社が倒産し失業するリスクもあるため、会社員は優遇しなければならない、というのが政府の言い分でした。

この制度の原型が作られたのは、実は大正時代です。

大正から昭和初期までは、自営業のほうが安定していて「勝ち組」だったので、会社員のほうを保護すべき、という感覚だったのです。

ですが、今では会社員のほうが「勝ち組」です。個人事業主・フリーランスは、自由ではありますが、会社員に比べると不安定な働き方です。

しかも政府税調の調査では、会社員の必要経費は収入の約3%に過ぎないことが判明したようです。前述の通り、給与所得控除を「収入の3割」で設定するのは多すぎるというわけです。

さらに、主要国の制度と比較したところ、日本の給与所得控除の水準は非常に高いことがわかりました。

日本の上限は195万円ですが、フランスの場合は約164.5万円、アメリカは約147.6万円(他の控除も含む)、ドイツは定額約13万円、イギリスはゼロと、かなり低いのです。

これらを踏まえ、政府税調は「日本の会社員は税金が優遇されている」と主張しているのです。

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-FRB、シティへの改善勧告を解

ビジネス

英、金融指標の規制見直し 業界負担を軽減

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

米、台湾への新たな武器売却承認 ハイマースなど11
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中