最新記事
戦争

ウクライナ、知られざるもう一つの戦い 長期にわたるストレスで家庭内暴力が大幅増加

2023年8月8日(火)20時31分
ロイター

暴力の連鎖

ロイターが閲覧した資料によれば、夫のヤコフさんは11月に軍を脱走した。隣人のオルガ・ドミトリチェンコさんの話では、夫はドニプロに戻ると自宅で酒を飲んでは妻のリューボフさんを殴るようになり、彼女は外出しなくなったという。

リューボフさんは亡くなる数日前、西部の都市リビウに向けて出発する計画を立てたが、「間に合わなかった」とドミトリチェンコさんは言う。「早く逃げなさいと言ったのだけど」

 
 
 
 

現在リューボフさんの3人の子どもは、ドニプロにある母親の墓まで車ならさほど時間のかからない場所で、いとこたちと共に暮らしている。

ロイターが閲覧した1月27日付の警察の報告書によると、リューボフさんの死因について医師が心臓発作であると結論づけたため、警察は当初、捜査を打ち切った。

遺族の弁護士であるユリア・セヘダ氏はこの決定に対して、心臓発作は激しい殴打によって引き起こされたものだとして異議を申し立て、受理された。3月28日付の裁判所の文書では、リューボフさんの死に対する刑事捜査が再開されている。

「DVで起訴されれば、それだけでも大きな勝利だ」とセヘダ氏は述べ、いまだにDVは夫婦間で解決すべき私的な問題だという意見を持つ裁判官や警察官がいると説明する。

DVに対して有罪判決が出るとしても、ウクライナ法のもとでは禁固2年が最も厳しい量刑となる。加害者の多くは、170-340フリブナ(650─1300円)の罰金を科されるか、社会奉仕を命じられるだけだ。

レフチェンコ氏は、2015年の警察及び司法制度の改革を経て、DVはようやく犯罪として処理されるようになり、専門の法執行機関が設けられたと語る。

レフチェンコ氏によれば、DV事件の報告件数が増加しているのは、警察がこの問題に対してより大きな関心を払うようになったことの反映だという。

隣人のドミトリチェンコさんは、リューボフさんが夫の暴行について正式な通報をしたことは1度もなく、ドミトリチェンコさんが11月に警察を呼んだときも、ドアを開けようとしなかったと語った。

リューボフさんの遺族は、彼女の墓から夫の苗字を削除し、旧姓に変えようとしている。

「彼女の名前は、リューボフ・ピリペンコです」

おばのウェドレンセワさんは、リューボフさんの墓参りをしながらそうつぶやいた。

Layli Foroudi(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中