最新記事
軍事

米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向け砲弾製造用途で

2023年6月2日(金)11時36分

米国務省は、日本からTNTの調達を検討しているかとの質問には直接答えず、ウクライナが必要とする支援について、同盟国や有志国と協力していると回答した。その上で、日本は「ウクライナの防衛について主導的な役割を果たしている」とした。

同盟国で武器のサプライチェーン構築へ

ロシアが勝利すれば中国による台湾侵攻の動きを勢いづかせる恐れがあると危惧する日本政府は、ウクライナを積極的に支援しようとしている。岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」とたびたび発言してきた。

それでも、武器の供与については三原則に基づき殺傷能力のあるものまで踏み込んでこなかった。5月中旬に訪日したウクライナのゼレンスキー大統領と広島市で会談した際も、岸田首相は自衛隊車両を供与する方針を伝えるにとどめた。

安全保障や輸出管理などが専門の拓殖大学の佐藤丙午教授は「弾薬は兵器ではなく軍需品なので、致死性があるものを輸出するという解釈は妥当ではないように思う」とする一方、「それに準ずる日本産のものが紛争地に行くことに対し、過激に反応する人たちがいてもおかしくない」と話す。

ウクライナ向けの弾薬供給が不足する中、米国は日本を含め同盟国、有志国に協力を求めている。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は主要7カ国首脳会談(G7広島サミット)の期間中に開いた記者会見で、「ウクライナの継戦能力を維持するために必要な物資を確保することは、引き続きバイデン大統領の最優先課題だ」と語った。

155ミリ砲弾を運用する韓国も米国から協力を打診された国の1つだが、韓国国防省の関係者はロイターの取材に対し、殺傷能力のある武器をウクライナに供与しない方針は変わっていないと答えた。

ロイターは米軍が打診した日本企業を特定できていない。前出の関係者らも企業名を明らかにしなかった。

ロイターが日本火薬工業会の会員企業のうち、火薬類を扱う22社に問い合わせたところ、TNTを製造していることを確認したのは中国化薬(広島県呉市)のみ。同社はロイターの取材に対し、TNTを製造しているものの「輸出について米政府及び米軍から直接打診を受けたとの事実はない」とした。

防衛装備庁や他の企業などを通じて米側と協議しているかどうかについては、「個別の商取引については細部を答えていない」とコメントを控えた。

岸田政権は、昨年末にまとめた国家安全保障戦略など防衛三文書に三原則を見直す方針を盛り込んだ。与党の自民党と公明党が運用指針の改定に向け現在協議しており、殺傷能力のある武器輸出を可能にするかどうかが議論の焦点となっている。

1日の日米防衛相会談後に会見したオースティン米国防長官は、日本が武器輸出政策の変更を検討していることについて問われ、「さらにウクライナへ支援できるようになるのは歓迎だが、決めるのは日本政府だ」と語った。

(Tim Kelly、久保信博、豊田祐基子、金子かおり 取材協力:Idrees Ali、Ju-min Park 編集:橋本浩)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中