最新記事
タイタン

潜水艇タイタン悲劇の責任は誰が取る──オーシャンゲートを相手に訴訟を起こすのは困難、遺族は誰を責めればいい?

Disaster in the Deep

2023年6月27日(火)13時10分
ジュリア・カーボナロ

船舶が設計や建造の基準を満たしていることを船主、保険会社、規制当局に保証する格付け「船級」をタイタンが取得していないことは、オーシャンゲートも認めている。

「有人潜水艇の設計と運営において理性あるイノベーションを極めることを目指し、オーシャンゲートは設立された」と、同社はウェブサイトでうたう。「その定義上、イノベーションは既存のシステムにとらわれない」

■訴訟に勝算はあるのか

乗員乗客が死亡事故を含む免責同意書に署名したため、遺族がオーシャンゲートを相手取って訴訟を起こすのは難しいと専門家はみる。

「免責同意書の有効性は連邦海事法が判断する」と、バージニア大学の法学者ケネス・エーブラハムは言う。「だが、ほとんどの州で同意書は有効と見なされるだろうし、文言によっては遺族にも効力が及ぶと類推される」

とはいえ効力が及ばない関係者も考えられる。「潜水艇を製造したのがオーシャンゲートと別の組織なら、そこには免責が適用されないだろう。これも同意書の文言によるが、潜水艇の不具合を引き起こしたのが製造元であれば、責任を問われる可能性はある」

人身傷害が専門の弁護士ミゲル・カストディオは英デイリー・メール紙で、遺族がオーシャンゲートを訴えられるのは事故の原因が同社の乗組員の過失にあると立証できた場合に限ると述べた。

またロサンゼルスのシェリフ・エル・ダベ弁護士はウェブメディアのインサイダーに対し、「遺族がオーシャンゲートを訴えても勝てる見込みはゼロに近い」と、コメントした。「5人は極めて危険な活動に故意に参加し、重大な危険を故意に引き受けた」

報道によれば同意書には、タイタンは「実験的」な潜水艇であり「いかなる規制機関にも承認や認定を受けておらず、肉体的負傷や心的外傷、死をもたらす可能性がある」と明記されている。

■保険を請け負った会社は?

オーシャンゲートと契約した保険会社がどこだか知りたいものだと、メルコリアーノは首をかしげる。「通常、保険会社は契約する前に、船舶が基準を満たしていることをABSなどに確認する」

責任追及の矛先はオーシャンゲートにとどまらないかもしれない。「タイタンを潜水地点へ運んだ母船ポーラー・プリンスの運航会社も、責任を問われるかもしれない」と、メルコリアーノは言う。

オーシャンゲートは深海探検の保険を請け負った会社を明かしていない。「おそらく損害賠償保険がさまざまな団体や個人をカバーしており、文言次第では、免責同意書が除外していないあらゆる事態に保険が下りるだろう」と、エーブラハムは言う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中