最新記事
タイタン

潜水艇タイタン悲劇の責任は誰が取る──オーシャンゲートを相手に訴訟を起こすのは困難、遺族は誰を責めればいい?

Disaster in the Deep

2023年6月27日(火)13時10分
ジュリア・カーボナロ
タイタン

炭素繊維とチタンでできたミニバンサイズのタイタン。安全性を疑問視する声は何度も上がっていたが、事故を食い止めるには至らなかった OCEANGATE EXPEDITIONSーREUTERS

<「たとえ死んでも責任は問わない」そんな免責同意書に乗員乗客全員の署名を求めたオーシャンゲート社を遺族が訴えて勝てるのか>

今回のように極めてハイリスクな探検ツアーで事故が発生した場合、最終的に責任を負うのは誰なのか。また、遺族は運営会社に対して訴訟を起こすことができるのか――。

【動画】オーシャンゲートCEOが紹介...小型潜水艇タイタンの内部

小型潜水艇タイタンの捜索が続いていたとき、法律や保険の専門家たちがこうした疑問について見解を述べた。

6月18日、アメリカの深海探検専門ツアー会社オーシャンゲートが所有するタイタンは、沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を見学するため5人を乗せて出港し、消息を断った(編集部注:米沿岸警備隊は22日、タイタンの破片が海底で発見され、乗員5人全員が死亡したとの見解を発表した。外側からの圧力で破壊される現象「爆縮」が起きたとみられる)。

カナダ・ニューファウンドランド島の沖合約600キロの海底に沈むタイタニック号まで、タイタンは2時間半かけて潜る予定だった。通信が途絶えたのは潜水開始からおよそ1時間45分後で、すぐに懸命の捜索活動が始まった。

タイタンにはオーシャンゲートのストックトン・ラッシュCEO、フランス人操縦士のポール・アンリ・ナルジョレ、イギリスの億万長者で探検家のハミッシュ・ハーディング、パキスタンの実業家シャーザダ・ダウードと息子スールマンの5人が乗っていた。

■事故の責任は誰にあるのか

普通に考えれば、5人の死の責任は探検ツアーを企画・運営するオーシャンゲートにあるだろう。しかし法律が責任の所在を複雑にする。

ワシントン州エベレットに本社を置くオーシャンゲートは、ツアー中に死亡しても同社の責任は問わないとする免責同意書への署名を、乗員乗客の全員に求めていた。

またオーシャンゲートはいくつもの法の抜け穴をかいくぐっており、同社が法を遵守しているかどうかは複雑だ。

ノースカロライナ州キャンベル大学で海事史を教えるサルバトーレ・メルコリアーノ准教授は、タイタンのような潜水艇は通常の船舶と違っておおむね規制の対象とならないと指摘する。

「(こうした潜水艇は)特定の国で登録することを義務付けられていない。だから『海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)』のような国際条約に準拠する法律には縛られない」と、彼は本誌に語った。

それでもアメリカでは1993年の客船安全法を遵守しなくてはならないはずだが、タイタンは国際水域を運航していたため、これにも従わなかったという。

「潜水艇は一大産業で、多くの民間船舶が深海掘削やケーブルの敷設に従事している」と、メルコリアーノは言う。「アメリカ船級協会(ABS)などの第三者機関が潜水艇を審査し船級ごとに分類するが、タイタンはABSの審査を受けていなかった」

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中