最新記事
中東

イスラエル極右政権の復権と報復の連鎖──止まらない民衆間の暴力

2023年6月27日(火)12時55分
錦田愛子(慶應義塾大学教授)

増加する民衆間の暴力

近年の動向の中で懸念されるのは、これら政府レベルの決定や扇動だけではない。イスラエル・パレスチナ双方の一般の人々の間でも、互いへの暴力の行使は拡大し、頻発する傾向にある。こうした変化は数年前から起きており、警察による歯止めも効かない状態となっている。

エルサレム市内でのパレスチナ人家族の立ち退き問題をめぐり2021年に起きた衝突では、ガザ地区からのロケット弾攻撃とそれへの報復としての空爆に加えて、一般民衆の間でも多くの襲撃事件が起きた。

衝突はパレスチナ自治区内にとどまらず、イスラエル国籍のパレスチナ人をも巻き込むものとなった。

テルアビブ郊外のロッドでは、通りがかったパレスチナ人タクシー運転手が車から引きずり出され、暴徒化したイスラエル人に殴打される事件が起きた。当時も首相であったネタニヤフはロッドに緊急事態宣言を出したが、騒乱は拡大し、イスラエル警察による制止によっても一時制御不能な状態に陥ったという。

これらの暴動はSNSを通して情報が拡散され、急速に広まるという性質をもつ。ロッドでの襲撃も一部始終が携帯電話で録画され、動画が配信された。

右派のユダヤ人はSNS上で「イスラエル・アラブ(パレスチナ人)を襲え」と呼びかけた。これに対してパレスチナ側からの暴力行使も拡大している。ユダヤ教の礼拝施設シナゴーグや宗教施設が襲撃の対象とされ、各地で焼き討ちされたり、多数の犠牲者が出たりする事態となっている。

今年1月27日にも、東エルサレムのネヴェ・ヤアコブ地区のシナゴーグ前で銃撃事件が起こり、7人が死亡するかつてない事態となった。実行犯の男性は、これは前日にジェニンで起きたイスラエル軍による攻撃への報復だと述べた。事件が起きたのはユダヤ教の安息日で、ホロコースト追悼の記念日でもあった。

第三次インティファーダへの発展の可能性

こうした民衆間の暴力の拡大は、今後どのような展開をたどるのだろうか。イスラエル側に関していえるのは、政府による制止の有効性は低いと考えられるということである。衝突が起きるたびに、治安組織としてイスラエル警察や軍は派遣され事態の収拾を図るが、その到着以前に被害はすでに甚大なものとなっている。

また入植者による襲撃は、イスラエルの主要閣僚による個人的なお墨付きを得ており、彼らの行為を厳罰に処して抑止効果を得ることは不可能である。極右を含む連立政権が解消されない限り、入植者の専横を止めることはできない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、EU産ブランデーに最大34.9%の関税 5日

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

オランダ国防相「ロシアが化学兵器の使用強化」、追加

ビジネス

GPIF、24年度運用収益1.7兆円 5年連続増も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中