最新記事
中東

イスラエル極右政権の復権と報復の連鎖──止まらない民衆間の暴力

2023年6月27日(火)12時55分
錦田愛子(慶應義塾大学教授)
焼かれた車両(ラマラ)

入植者に焼かれたパレスチナ人の車両(6月21日、ヨルダン川西岸地区ラマラ) Ammar Awad-REUTERS

<イスラエル軍がヨルダン川西岸地区を攻撃するのに戦闘ヘリコプターのアパッチを投入したのは第2次インティファーダ以来20年ぶり。イスラエル・パレスチナ双方の一般人の間でも、互いへの暴力が拡大している。緊張の高まりの背景にあるのは>

パレスチナ自治区の抵抗運動とイスラエル軍・入植者の間での衝突が、ここ最近、激しさを増している。報復の連鎖が続き、暴力の拡大が止まらない状況となっている。

背景にはどんな政治構造があるのか、今日の状況にはどのような特徴がみられるのか。過去数年の間にみられてきた、現状につながった展開を振り返ってみたい。

止まらない報復の連鎖

ヨルダン川西岸地区北部の町ジェニンで6月19日に起きたイスラエル軍との衝突は、近年に例をみない大規模なものとなった。ハマース関係者の拘束のため難民キャンプに入ったイスラエル軍の部隊は、イスラーム・ジハードの武装勢力を含む反撃にあい、激しい銃撃戦となった。

イスラエル軍はドローンに加えて戦闘ヘリコプターのアパッチを投入し、パレスチナ側では15歳の少年アフマド・サケルを含む5人が殺され、重傷者23人を含む91人の負傷者が出た。西岸地区での攻撃にアパッチが使用されたのは、第2次インティファーダ以来で20年ぶりだという。

翌20日にはパレスチナ人による報復攻撃が起きた。入植地エリでガソリンスタンドとその近くのホムス・レストランが銃撃され、イスラエル人の17歳の少年を含む4人の入植者が射殺され、4人が負傷した。実行犯の1人はその場で射殺され、もう1人は数時間後、イスラエル軍の特殊部隊により殺された。ハマースはこの銃撃事件が傘下のカッサーム旅団により実行されたことを認め、イスラエルの犯した罪に対する「当然の報い」だとの声明を出した。

これに対して入植者らもまた即座に報復に動いた。同じ日の晩のうちに近郊から車で集まった入植者がエリ入植地の近くの複数のパレスチナ人の村を襲撃し、住民に対して銃を向け投石をし、家屋や車、農地などに放火した。この襲撃に関連して3人のイスラエル人が逮捕されたが、その間にパレスチナ人34人が負傷し、救急車を含む140台の車が焼かれる惨事となった。襲撃を受けた町のひとつフワラは、今年の2月にも報復攻撃として入植者300人以上による襲撃を受けており、家屋36軒、車100台以上が焼かれる事件の起きた場所である。

パレスチナ自治区の村と入植地との間でのこのような衝突は、これ以前にも繰り返し起きており珍しいことではない。とはいえその規模はこれまで比較的限られたものであった。最近見られる動向では、報復のサイクルがきわめて早く、より激しくなってきていることが指摘される。こうした状況を中東のメディアは連日、速報で伝えており、21日の深夜にイスラエル軍がナーブルス市内で家屋破壊を行う様子はアル=ジャジーラなどで生中継で報道された。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇が退院、信者らの前に姿見せ居宅へ 2カ月

ワールド

米特使「プーチン氏は平和望んでいる」、ウクライナ和

ワールド

カナダ、4月28日に総選挙 首相「トランプ氏の脅威

ワールド

トルコ裁判所がイスタンブール市長の収監決定、野党の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中