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撤退したばかりのF1にホンダはなぜ5度目の参戦をするのか?...「夢の力」と「攻めの姿勢」

The Dream Redux

2023年6月21日(水)12時38分
井上久男(経済ジャーナリスト)

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ホンダのF1再参戦を表明する三部社長(左から2人目)とアストンマーチンのローレンス・ストロール会長(右から2人目) ISSEI KATOーREUTERS

その頃のホンダは安定した企業になるにつれて、いわゆる「大企業病」が進行し、他責の文化がはびこり、自由闊達に議論しながら斬新なことに取り組む社風も失われた。こうした組織風土を嫌い、若手技術者は大量に退社した。

身の丈を超えた戦略は業績面でもホンダを苦境に陥れた。ヒット車がなく過剰設備となり、四輪事業の収益力が落ちた。

15年に伊東氏からバトンを受けた八郷隆弘氏は構造改革に追われ、派生車種を減らす。イギリスやトルコの海外工場に加え、国内も狭山工場の閉鎖を決めた。

生産規模はトヨタ自動車の4割程度ながら、ホンダの研究開発費はトヨタの約7割の8520億円もあった。潤沢な予算を持ちながら、なかなかヒット商品が出せない研究開発体制の大胆な見直しも、八郷氏は進めた。

例えば、ホンダの研究開発部門である子会社の本田技術研究所には先進的な領域だけを残し、量産に近い技術は本体の四輪事業本部に移管した。

改革の流れは続き、三部氏も二輪事業と作業機械用汎用エンジンなどを担当するパワープロダクツ事業を統合した。こうした改革を進めた結果、22年度は18年度比で四輪事業の固定費を10%以上削減できた。

まだ改革途上であり、ホンダの四輪事業の営業利益率は23年3月期決算では半導体不足の影響もあってわずか0.4%しかない。しかし、攻めの姿勢に転じる体制は整いつつある。

今年4月1日付で電動事業開発本部を新設し、電動化領域の開発部門などを集約したのは、将来的なEV事業の分社化も視野に入れるからだ。課題の半導体調達では台湾積体電路製造(TSMC)との戦略的協業で合意した。

同じく4月にはブランド戦略も見直し、これからも「存在を期待される企業」であり続けることや「提供価値を明確にする」ことなどを掲げ、グローバルブランドスローガンである「ザ・パワー・オブ・ドリームス(The Power of Dreams)」を再定義した。

F1再参戦は企業ブランドの再構築とも大きく関係している。ホンダは、F1がもたらす「夢の力」を知り尽くしている会社でもある。

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