最新記事

F1

撤退したばかりのF1にホンダはなぜ5度目の参戦をするのか?...「夢の力」と「攻めの姿勢」

The Dream Redux

2023年6月21日(水)12時38分
井上久男(経済ジャーナリスト)

230627p25_HDA_02.jpg

レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは21年にドライバーズ部門制覇 JEROME MIRONーUSA TODAY SPORTSーREUTERS

ホンダ社内には「北米でのホンダ車の存在感が低下しているのではないか」といった声がある。こうしたなか、欧州発祥のF1は実は現在、アメリカでキラーコンテンツとなっている。

17年に米リバティメディアがF1の運営会社を買収後、国内で人気が急上昇しているからだ。ホンダにとってF1は北米市場での広告効果を期待できる武器として使えるだろう。

今後、ホンダがEVシフトを進めていく上でも、北米戦略の成否が成長を左右する。

ホンダは22年、米オハイオ州にある工場をEV生産のハブ拠点とし、韓国のLGエナジーソリューションと合弁で同州内にEV向け電池工場を新設して25年から稼働させる計画を発表した。EV生産のハブ拠点化と、LGエナジーソリューションとの合弁事業という2つのプロジェクトの総投資額は51億ドルになる見通しだ。

3つ目のキーワードが世界最大の石油会社で、サウジアラビアの国有企業サウジアラムコだ。

今回ホンダがPUを提供するアストンマーチンは、F1でアラムコと提携している。昨年、巨額な資金力を持つそのアラムコがホンダのF1チームに接触、買収するのではないかとの情報を筆者は得た。買収には至らなかったが、ホンダとはさまざまな議論をしたとみられる。

ホンダの再参戦は、このアラムコの動きと無関係ではないだろう。現に今回ホンダは、F1で使うカーボンニュートラル燃料をアラムコと共同開発する。

F1では開発費に上限が設けられているが、F1と直接関係しない領域でもアラムコとホンダは今後、技術交流を深めていく計画のようだ。アラムコにとってはホンダの技術力、ホンダにとってはアラムコの資金力は魅力的だろう。

カーボンニュートラル燃料については、航空業界では一定の使用量を義務付ける動きが出ており、新規事業である小型航空機「ホンダジェット」の開発にも応用できる。

スローガン「夢の力」も再定義

これら3つのキーワード以外にも、再参戦の前提としてホンダの企業としての姿勢に変化が生まれつつある点も大きい。

09年に社長に就いた伊東孝紳氏は12年、世界販売600万台の目標を掲げ、派生車種を増やし、世界の工場の生産能力を増強した。

当時の販売実績から倍増させる野心的な計画だったが、その拡大戦略に商品力が付いていかず、13年から14年にかけて最量販車の「フィット」で度重なる大規模リコールを起こした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エーザイ、内藤景介氏が代表執行役専務に昇格 35歳

ビジネス

シャオミ、中国8位の新興EVメーカーに 初モデル好

ワールド

焦点:米の新たな対中関税、メキシコやベトナム経由で

ワールド

EU、「グリーンウォッシュ」巡り最終指針 ファンド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中