最新記事
韓国

月額7万円の「韓国版・引きこもり対策」...壮大な社会実験が始まる

THE SOUTH KOREANS WHO WON’T LEAVE THEIR ROOMS

2023年6月2日(金)13時10分
ジョン・フェン(本誌記者)
ソウル

「若者は立ち直れる」と言われてきたが、その言説にも変化が(ソウル市内) KIM HONG-JIーREUTERS

<支援金を配って社会復帰を促すアプローチは、孤立に苦しむ若者を救い、広がる閉塞感を打破できるのか>

青少年の引きこもり問題をめぐって、韓国で壮大な実験が始まろうとしている。孤独な若者に定期的に生活費を支給することで社会復帰を促そうというアプローチだ。

女性家族省は4月半ば、引きこもりの若者に最大で毎月65万ウォン(約6万9000万円)を支給する方針を発表した。職業訓練などのサポートも提供するという。

世界有数の経済大国となった韓国では、寿命が延び、生活水準も上昇している。

今回、引きこもりという少数派の弱者への支援を決めたのは、この社会問題が深刻化していること以上に、社会福祉制度の成熟を物語っていると専門家らは指摘する。

女性家族省は9~24歳を対象に、就学支援やカウンセリング、職業訓練の拡大も打ち出している。自傷行為をはじめ若者を取り巻く危険な状況は以前から指摘されてきたが、そうした懸念に引きこもり問題を結び付けた形だ。

国立保健研究院によれば、19~39歳の3.1%に当たる推定33万8000人が社会的孤立を経験している。別の調査では、引きこもりの40%が思春期に引きこもりが始まったと回答した。

女性家族省の報告書では、ある17歳の若者の引きこもりの原因として家庭内暴力と鬱病が挙げられていた。

この青年は一日の大半を寝て過ごし、外出するのも他人と目を合わせるのも苦手だった。教室に無理やり連れ戻されそうになったことで不安などの症状が悪化した若者もいる。

「引きこもりの若者は、不規則な生活や栄養の偏りにより身体の成長が遅れやすい。また、社会的役割の喪失や適応の遅れなどの理由で、鬱病などの精神的困難に直面する可能性が高い」と、同省は指摘している。

韓国が直面する課題は引きこもりだけではない。2020年に5184万人でピークに達した人口は、22年には5163万人にまで減少。

22年の合計特殊出生率は0.78で、出生数は1970年の統計開始以降最も少ない24万9000人だった(国連は人口維持のためには出生率2.1が必要としている)。

尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は今年3月、出生率の低下は「重要な国家的課題」と語った。韓国は過去20年間、対策に巨額を投じてきたが、隣国の日本と同じくこの問題は根強く残っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中