人気を当てにしない「親日」尹大統領、1年目の成績表の中身とは?

Yoon’s Polarizing First Year

2023年5月15日(月)14時13分
カール・フリートホーフ(シカゴ国際問題評議会フェロー)

230523p30_KAN_02.jpg

大統領公邸で岸田首相夫妻をもてなす尹大統領夫妻(今年5月7日) OFFICE OF THE PRESIDENT, ROKーREUTERS

しかしNBSの調査を見ると、この拒否権発動についての世論は割れている。国会を通過した法案に大統領が拒否権を発動することには問題があるとの回答は過半数(51%)に達した。

だが与党・国民の力の支持者に限れば、74%が拒否権行使を支持している。そうであれば、尹の決断が揺らぐことはない。

尹政権と野党の対立は、尹が進める対日関係改善への動きにも影を落としている。野党側は尹政権の姿勢を妥協的なものと断じ、尹大統領は「親日」的だと非難している。この「親日」という言葉は、韓国政界では最大の汚点となる。

第2次大戦中に日本へ連行され、強制労働に従事させられた人々への補償をめぐる問題で尹政権が示した提案にも、世論調査では国民の6割が反対を表明している。

それでも尹は、日本との関係改善が国益につながるという信念を崩さない。たとえ支持率が1%にまで落ちても関係改善を進める――そう語ったとも伝えられる。

政治経験なしで大統領になったことを考えれば、尹が洗練された政治家タイプでないのは驚くに当たらない。そもそも、彼が政治家として身を置いた保守政党自体の体質が、洗練には程遠いものだったことも事実だ。

保守本流だった朴槿恵(パク・クネ)は17年に、韓国大統領として初めて弾劾・罷免され、既に収賄や職権乱用などの罪で実刑が確定している。朴政権時代の汚点が尾を引いて、保守派は20年の総選挙で文政権の与党・共に民主党に歴史的な大敗を喫した。

保守政党の低迷はその後も続いた。22年の大統領選挙が迫っても、次世代の指導者は現れなかった。保守勢力を糾合した「国民の力」の執行部が推す候補は精彩を欠いていた。その空白地帯に足を踏み入れたのが尹だ。

そして尹は予備選を勝ち抜き、党の公認候補となった。検事時代に朴の収賄事件の捜査を指揮した経歴は、尹の大きな武器となった。

与党内にまともなリーダーがいないという状況は、予備選段階での尹には有利に働いた。しかし一方で、それは党内に基盤を欠いたままで、いわばアウトサイダーとして大統領に就任したということを意味していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン、インドに対する軍事作戦開始と発表

ワールド

アングル:ロス山火事、鎮圧後にくすぶる「鉛汚染」の

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 7
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中