ニュース速報
ワールド

アングル:ロス山火事、鎮圧後にくすぶる「鉛汚染」の懸念

2025年05月10日(土)08時51分

 5月7日、フェンウィックさん一家は幸運だった。1月に米西部カリフォルニア州ロサンゼルスの北東部で猛威を振るった山火事で、一家4人は真夜中の避難を強いられた。火災が落ち着いて戻ってみると、自宅は焼けずに残っていた。写真は1月、山火事で焼け落ちたカリフォルニア州アルタデナの住宅跡で撮影(2025年 ロイター/Shannon Stapleton)

Rachel Parsons

[ロサンゼルス 7日 トムソン・ロイター財団] - フェンウィックさん一家は幸運だった。1月に米西部カリフォルニア州ロサンゼルスの北東部で猛威を振るった山火事で、一家4人は真夜中の避難を強いられた。火災が落ち着いて戻ってみると、自宅は焼けずに残っていた。

しかしそれから4カ月後、フェンウィックさん一家や、ロサンゼルス東部イートン地区の火災の焼け跡近くに住む数千人もの住民たちは「鉛汚染」という新たな脅威に直面している。

フェンウィックさん一家は先週、ロサンゼルス郡公衆衛生局(DPH)が設けた無料の移動検査場で、血中に含まれる鉛を調べるための血液検査を受けるために数百人の行列に並んだ。

ミシェル・フェンウィックさんは、夫のダーシーさんが1歳半の女児のリリーちゃん、5歳の男児を抱きかかえる傍らで「私が一番心配しているのは鉛中毒だ。特に1歳半の娘は現在、あらゆる物を口に入れる時期だからだ」と話した。

災害対応を担う連邦緊急事態管理庁(FEMA)は2月、山火事の被害があった土地の土壌検査を拒否。被害がなかった土地を検査する計画もないと説明した。

これに対してロサンゼルス郡は土壌のサンプル検査を発注し、4月上旬にイートン地区と隣接する土地の土壌から州の許容レベルを超える鉛を検出したと発表した。

米疾病対策センター(CDC)によると、鉛汚染は長期にわたる暴露で神経毒性や臓器障害を引き起こす可能性がある。

子どもの体内に鉛が蓄積する主な原因は手を使って口に入れる行為で、専門家らは学習の問題や発達の遅れ、行動上の問題を引き起こす恐れがあると指摘する。

DPHのチーフ医療アドバイザー、ニコル・クイック博士は4月10日のオンラインでの住民との対話集会で「鉛は危険な神経毒であり、体内の濃度が低くても、特に子どもの場合は長期にわたって害を及ぼす可能性がある」とし、血液検査で異常値を示した住民はいなかったものの「あらゆる量の鉛は安全ではない」と訴えた。

鉛は時間の経過とともに血中に蓄積され、症状が出るまでに数週間から数カ月かかる。このためDPHは「山火事の発生時期と現在の検査結果を踏まえると、著しい暴露があった場合は一般的には今頃は数値が上昇していると見込まれる」とし、「血中の鉛検査を継続的に実施することで、遅れたり、継続中だったりする暴露を見逃さないようにする」と説明した。

DPHによると、検査で鉛の陽性反応が出た人には3日以内に電話で連絡する。それ以外の人には郵送で結果を伝える。

<地価への影響>

フェンウィックさん夫妻は、子供たちを守るために推奨されている全ての手順を踏んだ。

ミシェルさんは「いかなる暴露も防ぐように掃除し、人工芝を敷き、土を覆い、腐葉土で泥を覆った」と話す。

しかし検査の結果次第ではより恒久的な解決策を考えるかもしれないと打ち明けた。それは引っ越しだ。

もっとも、山火事の被害区域がイートン地区と高級住宅地のパシフィックパリセーズ地区の計4万エーカーを超え、少なくとも27人が死亡し、1万2000棟を超える建造物が破壊された後、自宅をいくらで買い取ってもらえるかはまた別の問題だ。

不動産データ企業のランドアップによると、あらゆる種類の土壌汚染は「地価を著しく低下させる」可能性があると指摘する。

イートン地区の鉛の主な原因は、1世紀以上前に建てられた古い住宅だ。1978年より前に建てられた住宅は、ほぼ間違いなく鉛をベースにした塗料で覆われ、しばしば鉛管を備えていた。

多くの住民にとって、引っ越しという選択肢はない。火災発生直後には賃貸価格が高騰し、地価を押し上げるとの見方もあったものの、その後価格は下がった。

一方、山火事の被害を受けて避難を余儀なくされた数千人もの住宅需要は、被災地の住宅供給をはるかに上回っている。

血液検査の列に並んでいた元保護観察官のパトリシア・ローチさんは「どこに行けばいいのか」と問いかけた。

ロサンゼルス郡は環境コンサルティング企業、ルークスと契約し、被災地の風下1マイル以内にある367カ所の土壌検査を実施した。

その結果、ローチさんとフェンウィックスさんが住む地域では、検査サンプルの大半が州の定める鉛の許容レベルを超えていることが判明した。

<コストがかさむ土壌浄化>

別の疑問は、土壌浄化が必要な場合、その費用を住宅所有者が負担しなければならないのかということだ。

被災地の所有者は、FEMAが指示しているように、陸軍工兵隊(USACE)から汚染土壌の上部6インチの検査と除去を受ける権利がある。

だが、火災被害を受けていない家の所有者は受けられない可能性がある。

DPHは、FEMAに山火事の影響をさらに評価するための支援を求めている。ところが、トランプ政権下で連邦政府のコスト削減が進められている中で、FEMAが支援するのかは不透明だ。

ロサンゼルス郡管理委員会のキャサリン・バーガー委員長の事務所はトムソン・ロイター財団に宛てた声明で、郡は土壌検査の費用を負担しているものの「住民には、保険会社に対して浄化のための金銭的支援を要求するように推奨している」と説明した。

ルークスの主任科学者、アダム・ラブ氏は住民との対話集会で、州の基準レベルを超える化学物質の蓄積は「浄化の必要性を意味するものではない 」とし、追加の精査が必要だということを意味するかもしれないと言った。

郡当局者は、血液検査で高濃度の鉛が検出された住民は、自分の土地をさらに検査し、土壌の除去を求める可能性があるとの見方を示した。

検査会場では、リリー・フェンウィックちゃんの小さな腕に看護師が採血用の注射針を刺す様子を、両親は苦悶の表情で見守っていた。

フェンウィックさん夫妻は他の人たちにも検査を受けるように勧めている。

母親のミシェルさんはこう促す。「採血を受けなさい。それが本当のことを知ることができる唯一の方法なのだから」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレは依然高すぎる、政策変更は差し迫らず=米ク

ワールド

イラン空域制圧へ作戦順調、米が新指導者候補を複数検

ビジネス

米2月雇用、9.2万人減で予想外のマイナス 失業率

ビジネス

米原油先物、23年10月以来の高値 北海ブレント9
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 10
    アルツハイマーを予防する「特効薬」の正体とは? …
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中