人気を当てにしない「親日」尹大統領、1年目の成績表の中身とは?

Yoon’s Polarizing First Year

2023年5月15日(月)14時13分
カール・フリートホーフ(シカゴ国際問題評議会フェロー)

そのため、尹は大統領として政権を運営しながら、同時に党内の掌握に努めるという異例の対応をせざるを得なかった。本来、そうした調整は候補指名を受けた直後、もしくはその前に行われるべきものだ。

だが、党内に有力な指導者がいないおかげで勝ち上がれたという事情は、それだけ党内の敵を排除するのも、追い落とすのも容易だということをも意味していた。

レームダック化の危機

尹にとって、党内で最大のライバルは李俊鍚(イ・ジュンソク)だった。彼は入党して間もない21年6月に、36歳の若さで党の代表に選ばれていた。反フェミニズムの急先鋒と目されていた李は、韓国の男性若年層の間に支持基盤を広げることを期待されていたが、一方で世代間の対立をもたらした。

尹と李は予備選で激しい論争を繰り広げた。そして尹が勝利するとすぐ、党は李に対して厳しい態度に出た。李に「性的接待」の証拠隠滅を図った疑惑が浮上すると、党は彼の党員資格を停止するという懲戒処分を下した。

その後、尹が当時の党代表代行に送ったメッセージから、尹が李を批判していることも明らかになった。四面楚歌となった李は、党員資格停止をさらに1年延長する処分を下され、これにより来年の総選挙への出馬も事実上不可能になった。

さて、この先はどうなるか。まず、死活的に重要なのは来年4月の総選挙だ。自身の下で与党をまとめ、一丸となって選挙戦に臨めるかどうか。

失敗して野党・共に民主党が議会の過半数を維持する事態になれば、尹はその後の3年をレームダック(死に体)で過ごすことになる。

その場合、尹は5年の任期を通じて一本の主要法案も成立させられない公算が高まる。持論の教育、労働、年金、医療改革も、議会で葬られるのは必至だ。苦労してまとめたはずの党内は分裂し、日本との関係改善には各方面からの抵抗が強まるだろう。

党内の反対派を排除し、メディアを敵に回し、野党陣営には牙をむく。そういう尹の強引な手法には欠陥がある。そもそも与党の支持者を増やしにくい。

韓国ギャラップの4月初旬の調査では、政府を牽制するために来年の総選挙では野党候補が多数当選すべきとの回答が50%に達していた。もちろん、選挙までにはまだ1年あるので、何が起きるかは分からない。

たとえ国民全般には嫌われても、自分の支持基盤にアピールする政策ならどんどん進める。それが現時点までの尹のやり方だ。彼が韓国内の政治的分断を深めたとは言うまい。だが亀裂を埋める努力が見られないのも事実だ。

このままだと、彼の支持率は今後もせいぜい30%程度にとどまる。そして来年4月の総選挙までに与党の支持基盤を拡大できなければ、尹錫悦は大統領として何の遺産も残せないことになる。

From thediplomat.com

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ワールド

英仏日など、イスラエル非難の共同声明 新規入植地計

ビジネス

ロ、エクソンの「サハリン1」権益売却期限を1年延長

ビジネス

NY外為市場=円が小幅上昇、介入に警戒感
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中