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ウクライナ化学工場へのミサイル攻撃で「有害物質」飛散か...映像が示す凄まじい爆発の規模

Pavlohrad Chemical Plant Blast Could Spell Eco-Disaster for Ukraine

2023年5月6日(土)11時14分
アレックス・フィリップス

ただし、ロケット燃料は「ほぼ間違いなく」、燃料の一部として酸素源を含んでいるため、「はるかに完全な燃焼が可能で、おそらく不純物は少なくなる」と分析した。

「そのような火災を抑制する際、最も大きな環境上の懸念は、消火剤として使われるPFOS(ピーフォス:ペルフルオロオクタンスルホン酸)だ。なぜなら、そのような火災は文字通り、酸素供給を断つ必要があるためだ」とグラスは補足する。「それが常に大きな問題になる」

PFOSの主な用途は消火剤だ。消化剤は火災の温度を下げ、燃料への酸素供給を断つため、高温の火災に使用される。しかし米国立医学図書館によれば、PFOSは人体に急性毒性があり、動物の健康を害する恐れがある。

以前から指摘されていた環境災害の可能性

この工場は以前から、環境災害の可能性が懸念されていた。BBCウクライナ版は2020年、期限切れの固形ロケット燃料が1800トン以上保管されていると報じている。

工場の最高責任者レオニード・シマンはBBCの取材に対して、この施設で爆発が起きれば、ドニプロペトローウシク州および隣接する4地域に影響を及ぼす人為的な環境災害が発生する可能性があると述べている。

ウクライナの科学者たちは2014年、この工場で緊急事態が発生した場合に起こり得る影響を調査し、有害化学物質が大気中に拡散するシミュレーションを行った。その時のモデルによれば、風向きによっては工場で燃料が燃え始めてから7分後には、パウロフラードの西端まで汚染が広がる可能性も指摘されていた。

「パウロフラードの化学工場で緊急事態が発生した場合、パウロフラードの住民に致命的な結果をもたらす毒性被害のリスクがある」と報告書には記されている。「有害化学物質が大気中に放出された場合、人々に致命的な傷害を与えるリスク」は「とりわけ重大だ」

この研究では、貯蔵施設で事故が発生した30分後、塩化水素を含む有害物質が、大気中に1立方メートル当たり18.02ミリグラム、施設付近の屋内に4.86ミリグラム存在すると示された。塩化水素は、呼吸器疾患を引き起こす腐食性化学物質だ。科学者たちは、どちらのケースでも、有害とされる限界値1立方メートル当たり4.5ミリグラム(1リットル当たり0.0043ミリグラム)を超えていると指摘している。

グラスはこの研究結果について、特に屋内において、大気汚染物質が「著しく高い」レベルにあることを意味すると説明したが、「森林火災のように、もやのようなものが見える場所では、周囲の大気汚染レベルが著しく高くなっているだろう」と付け加えた。
(翻訳:ガリレオ)

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