最新記事

ウクライナ戦争

経済無知で「謎の世界観」を持つプーチンらKGB出身者たち 河東哲夫×小泉悠

THE END OF AN ENDLESS WAR

2023年4月7日(金)21時05分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部

現在EUの保険会社はロシア絡みの船には保険を提供しないことになり、ロシア原油は価格をそれだけ割り引かないと売れなくなった。プーチンの発言などを見ていると、どうもそれを予期してなかったようで、この前の会議でこれについて早く対策を考えろって檄を飛ばしている。ときどき、この人たちの経済無知は致命的なんじゃないかと思いますね。

――KGB出身のプーチンも経済には無知であると。

■小泉 始末が悪いのは、無知なんだけど知っていると思い込んでいることじゃないですか。俺たちは情報機関なんだと。俺たちのほうがよく知っているんだ、みたいな謎の自信が逆にある。

かつてプーチンの後継者候補とも目されていたセルゲイ・イワノフは、KGB時代に諜報員としてロンドンにもいて英語もすごくうまいんです。だけどそのイワノフが、イギリスでは経済のほとんどは国家の管理下にあるって言うわけです。資本主義発祥の地なのに。

やっぱりKGBだから頭はいいはずで、英語もペラペラで実際ロンドンに住んでいたのに、全く現実が見えない。ものすごく高い能力を持ちながら、謎の世界観をつくり上げて、それを信じてしまう不思議な傾向がKGBの人々にはある。プーチンと彼の取り巻きの元KGBたちも、そういう変な世界観と経済観を持っているかもしれないです。

■河東 それは中国も同じ。

――スパイ出身者がトップを占めている国はあまりない。KGB出身のプーチンがトップであるということと、戦争やロシアという国がこの状況になっていることは何か関係がある気がします。

■小泉 私は大いにあると思います。特に2012年にプーチンが(大統領に)復帰してきてから、プーチンや彼の政権がKGBであるということの悪い面が前面に出た。

いつまでもプーチン政権であることで国民が不満を持つ、経済が悪化する、あからさまにプーチンの側近ばかりが私腹を肥やすことに国民が異議申し立てをする、あるいはアメリカから民主化しろと言われる......というのを、全部彼らは陰謀として理解してしまう。

誰かが扇動するからこういうことが起こるんだ、あるいはアメリカは民主化の名目でロシアを弱体化させようとしていると思い、さらに強硬手段で応えるからまた話が通じなくなる。負のスパイラルが2010年代から続いてきた気がします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中