最新記事
ウクライナ戦争

経済無知で「謎の世界観」を持つプーチンらKGB出身者たち 河東哲夫×小泉悠

THE END OF AN ENDLESS WAR

2023年4月7日(金)21時05分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部
ルゲイ・イワノフ

プーチンの後継者と目されたイワノフ(左)も「謎の世界観」の持ち主 MAXIM SHEMETOV-REUTERS

<制裁は効いていないとされていたが、ロシア経済は足元から崩れつつある。そもそもトップに君臨するスパイ出身の大統領は......。日本有数のロシア通である2人がウクライナ戦争について議論した>

※本誌2023年4月4日号および4月11日号に掲載の「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集、計20ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。聞き手は本誌編集長の長岡義博。

【動画で見る】ウクライナ戦争の「天王山」と知られざる爆破陰謀論(小泉悠×河東哲夫 対談)

――続いてロシア経済の話についてです。先ほど河東さんの話の中で、ロシアの国民にとってまだ戦争は遠いところにあるとおっしゃっていましたが、ロシア経済は今後持つのか。また欧米の制裁の影響はどれくらいあるのでしょうか。

■河東 その点はこの1年間ロシアと西側でずいぶん議論されてきて、制裁はあまり効いてない、というのが議論の大勢になっています。GDP成長率は昨年マイナス2.5%前後。もともと3%成長の予測だったから合計マイナス6%ぐらいということになっているが、生活にはまだそんなに響いてない。

ただ制裁の影響がないと思っていると、あに図らんや足元から崩れつつある。

1つは石油と天然ガスの値段がまた急低下しました。去年は1日5億ドル以上、石油とガスの収入があったんだけれども、それが1日3億4000万ドルぐらいになる。それから輸入が急増してきて貿易黒字が少なくなった。エネルギー価格低下によってまた貿易黒字が低下して、経常収支が昨年12月ぐらいにはほぼプラスマイナスゼロ。ロシアにとってはかなり危険ですよ。

230411p18_KKT_04.jpg

モスクワのスーパーにはまだまだ商品が(今年2月) GETTY IMAGES

今年の予算を見てみても、プーチンは盛んに新しいことをやると言っているのだけども、財源はこれまでの貯金を取り崩しているわけです。これまでの貯金というのは、石油とガス収入のうちの余った分を取り分けて、それを国民福祉基金と称しているんだけれども、これを取り崩す。

これがあと2年ぐらいでなくなるだろうと言われている。だから大統領選挙に向けて、バラマキができなくなりつつあるわけです。財政赤字も増えるだろうと思われている。

もう1つ、長期的に響くのは技術、テクノロジーです。ウクライナ戦争の前から西側はロシアに対して(技術流出を)絞っているんだけれども、冷戦時代のCOCOM(ココム、対共産圏輸出調整委員会)のような体制が戻ってきている。ロシアは軍の技術などをはじめ、ものすごく困ってくるだろうと思います。

もう1つは在外資産。在外の資産を西側が凍結しているということは、ロシアの金持ちたちにとってものすごく困るし、ロシアの中央銀行にとっても痛いわけです。

■小泉 西側の制裁って、ロシアの一般市民を困らせるということはおそらく最初から目的ではなくて、今おっしゃったようなロシアの財政能力、その中でもロシアの軍備プログラムに資金を提供している銀行に打撃を与えることを狙っている感じがします。あと、プーチン周辺の高官たちの個人資産。プーチンの権力基盤を揺るがせることが狙いだろうと思うんです。

それだけでプーチン政権が倒れるとか、戦争を諦めるわけではないかもしれませんけども、戦争を継続する能力に制約を加えるという効果は確かに見込めるのかなと。

インタビュー
現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ「日本のお笑い」に挑むのか?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フォードEV事業抜本見直し、7車種生産・開発打ち切

ワールド

ウクライナ和平協議、米欧が進展報告も領土問題でなお

ワールド

EU、ロシア産石油取引で新たな制裁 商社幹部など対

ビジネス

米NY連銀総裁「FRBは今後の対応態勢整う」、来年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中