最新記事
ウクライナ戦争

経済無知で「謎の世界観」を持つプーチンらKGB出身者たち 河東哲夫×小泉悠

THE END OF AN ENDLESS WAR

2023年4月7日(金)21時05分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部

230411p18_KKT_03.jpg

西側によるロシア産原油の価格上限設定の効果見極めには時間がかかる(ロシア北西部ノブゴロドの石油精製所) ANDREY RUDAKOV-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

あの国の場合は経済の屋台骨が石油ですけど、原油の価格上限設定が始まったのは去年12月からです。まだ始まったばかりなので、これがどのぐらい効くのかは、見極めに時間がかかると思っています。年が明けてから、IMFがロシアは今年プラス0.3%成長という予測を出して衝撃を与えました。

制裁が全然効かないという話もあったわけですけど、そうであるとしても、いま世界的にこれだけエネルギー価格が上がっているのに、ロシアは成長のチャンスをみすみす逃した。ほぼ0%成長になったということでもある。

もう1つは、このIMFの推定が本当に正しいのかと疑問視するような論調が出ている。ロシアの公式統計を無批判に受け取っているんじゃないのか、と。確かに同じ時期に世界銀行が出した予測を見るとこちらは依然としてかなり悲観的です。マイナス3%ぐらいの成長とみている。

ロシアの制裁の影響は、軍需生産に関して言うと、河東先生がご指摘になったとおり将来型のハイテク兵器に関しては相当苦しいのだろうと思います。思い切って中国の技術への依存を強めないと、ロシアが考えるような次世代兵器はもう造れなくなっていく。

一方で普通の152ミリ榴弾砲の弾などだったらロシアはかなり造れている。この戦争でロシアは榴弾砲を月に45万発だか撃っているらしいんです。1日に平均1万5000発の榴弾砲の弾を撃つなんていうのは、どう考えても尋常なペースではない。それだけの大砲があるのもすごいですけど、そこに供給する弾の量を考えると備蓄だけで足りているとは思えない。かなり新規生産しているんじゃないか。

ということを考えても、やっぱりロシアの軍需産業は制裁下でも回っている。ハイテクなものはできないかもしれないけど、ローテクなものはロシアの能力は侮れないと、改めて証明された気がしています。

■河東 経済について付け加えると、今回の戦争を多分最初から引き回した旧KGB、今のFSB(ロシア連邦保安局)が経済に無知なんです。

僕も昔何人かと付き合っていたけれども、何でも命令すれば動くと思い込んでいる。できないことはできないってのが分からない。例えば、ロシアではいまドルを使えないようになっているが、FSB系の人たちはルーブルと人民元で決済するから大丈夫だと言う。それでは当然限界があるわけですが、何で限界が起こるのか、彼らFSBは分からない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-トランプ大統領、金利据え置いたパウエルFRB

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に

ワールド

ミャンマー、非常事態宣言解除 体制変更も軍政トップ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中