最新記事
ウクライナ情勢

「究極の政治的裏切り」を先に決断するのは、プーチンかゼレンスキーか?

PEACE REQUIRES BETRAYAL

2023年4月2日(日)11時46分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
ゼレンスキー大統領

激戦が続くバフムート近郊で兵士を激励するゼレンスキー UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS OFFICEーAP/AFLO

<「政治においては祖国か世論のいずれかを裏切らねばならない時がある」とシャルル・ドゴールは言った。それは「不完全な和平」に甘んじざるを得ないことも意味する>

外交を通じて平和を実現するか、さもなければ「茫漠たる人類の埋葬地」のみが残される「殲滅(せんめつ)戦争」に陥るか──1795年に発表した『永遠平和のために』でカントは当時の人々にそんな選択を迫った。

残念なことに歴史を振り返れば、人類は往々にして後者を選んできた。少なくとも、目を覆うばかりの惨禍が戦争当事国を交渉のテーブルに着かせるまでは......。

そしてその時点でさえ、戦いを終わらせたければ指導者には胆力が求められる。

ウクライナのゼレンスキー大統領が豪胆な戦時の指導者であることは誰もが認める。一方、今の彼が政治的ムードの人質になっていることも否めない。

隣国の領土にずかずかと侵入し破壊の限りを尽くすロシア。その残虐非道な敵に1㍉たりとも譲歩せず、完全な勝利を目指さなければ、ゼレンスキーは政治生命ばかりか、文字どおり命を失うことにもなりかねない。

戦争当事国が和平の道を探る段階では、しばしば世論は政治指導者以上に好戦的になっている。ウクライナ戦争のような祖国防衛戦争では国民は打って一丸となるが、戦争が長引いて政治指導者が不完全な形の和平を求めれば、国論は二分され、政治指導者は裏切り者呼ばわりされかねない。

それでも政治指導者が国民の反発を恐れずに停戦交渉を進めるなら、それは恐らく「高邁な裏切り行為」でしかない。

「政治においては祖国か世論のいずれかを裏切らねばならない時がある。私は世論を裏切るほうを選びたい」

これはフランスの元大統領シャルル・ドゴールの有名な言葉だ。彼は1962年3月にこう語り、アルジェリアの独立を認めるエビアン協定に署名した。そのため極右の怒りを買い、協定締結の数カ月後に危うく暗殺されそうになった。

保守強硬派で鳴らすイスラエルのアリエル・シャロン元首相ですら、ユダヤ民族主義者の期待を裏切った。

民族国家の再建を目指す人々は占領地内のパレスチナ人の土地を奪おうと精力的に入植を進めたが、シャロンは2005年、ガザ地区全域とヨルダン川西岸の一部のユダヤ人入植地を解体した。

シャロンは保守派の期待ばかりか、自身が高々と掲げてきた政治的信条まで裏切ったのだ。

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中