最新記事

ウクライナ情勢

犠牲になっても、今なおロシアを美化してすがる住民たち──言語、宗教、経済...ウクライナ東部の複雑な背景とは

LIVING UNDER SIEGE

2023年2月24日(金)18時44分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)
親ロシア派住民

シベルスクの親ロシア派住民(1月12日) TAKASHI OZAKI

<ロシアの激しい攻撃が続く東部ドネツク州。人道支援ボランティアに同行した日本人写真家が見た、ミサイル飛び交う空の下に暮らす住民たちの今>

2月4日午前10時、スマートフォンの画面越しに衝撃的な知らせが飛び込んできた。

〈私の息子はバフムートで戦い、重傷を負った。彼は左手を失い、多くの破片が体内に残っている〉

筆者が所属しているウクライナの人道支援団体「マリウポリ聖職者大隊」のリーダーがSNSに投稿したメッセージだった。リーダーの名はゲナディー・モクネンコ(54)。昨年5月に陥落したウクライナ東部のドネツク州マリウポリで活動していた牧師だ。

路上生活の子供を救い、里親制度の普及に努めてきた彼は37人の養子を育てた。その1人、13歳のときゲナディーの養子になった元孤児のスラフカが前線で倒れたのだ。

〈2014年、ロシアがわれわれを殺しにきたとき、彼は志願兵になった。そして昨年3月、戦線に復帰した。彼には3人の小さな子供がいる。生きていてくれてありがとう〉

このときゲナディーは、ウクライナの惨状を世界に訴えるために渡米中だった。彼の元に届いた息子の写真は顔面が血まみれで、肩には治療用の管が刺さっている。

若き兵士が次々と倒れている激戦地、ドネツク州バフムート。2月5日にはイギリス国防省が、ロシア軍の前進によってこの地は「ますます孤立している」と分析した。私は1月に渡米直前のゲナディーに同行し、バフムートと周辺の街を訪ねていた──。

230228p30_MAP_01-350.jpg

2月11日現在の地図

1月11日午後1時。ザポリッジャの倉庫に、マリウポリ聖職者大隊のメンバーら12人が集まった。

「私たちの旅が安全でありますよう神に祈ります。アーミン」

ゲナディーの祈りの言葉を受け、5台の車が東へ向かった。トラックには支援物資の食材や飲み物などのほかに、ドイツから届いたクリスマスプレゼントが積まれていた。

前線の街にプレゼントを届けようと考えたのは、ゲナディーの友人でモルドバ出身の実業家、アレキサンドル・レアホフチェンコ(34)。20代のときにアメリカ移住を決め、今はロサンゼルスのモザイク教会で活動している。発意の理由について尋ねると、彼はこう答えた。

「決めたのは10月で、すぐに募金を呼びかけた。特に理由はないよ。気付いたら、もう動き始めていた」

彼はロサンゼルスの教会で集まった募金をドイツ人のクリスチャン、ニコライに送りプレゼントの作成を依頼した。2人が知り合ったのは、親ロシア派政権を崩壊させた2013~14年のマイダン革命だ。デモの現場に支援物資を送ってもらったときの縁が続いていた。

この冬、ドイツ各地の教会からザポリッジャに届いたプレゼントは約3000個。「クリスマスと無縁なウクライナに何かできることはないか」と、世界中のクリスチャンが抱いていた思いが実った企画だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、新たな対ロシア制裁・輸出規制発表へ G7サミッ

ビジネス

アップル7%高、AI新機能を好感し最高値更新 時価

ビジネス

NY外為市場=ドル4週間ぶり高値、CPIやFOMC

ビジネス

米オラクルの3─5月期、クラウド収益が急増 株価9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬で決着 「圧倒的勝者」はどっち?

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場へ...義父・国王の「シルバー・ジュビリー」に出席

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 6

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 7

    イスラエルに根付く「被害者意識」は、なぜ国際社会…

  • 8

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 1

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 2

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中