最新記事

ウクライナ情勢

犠牲になっても、今なおロシアを美化してすがる住民たち──言語、宗教、経済...ウクライナ東部の複雑な背景とは

LIVING UNDER SIEGE

2023年2月24日(金)18時44分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

230228p30_TRP_01.jpg

スラビャンスクの停電中の教会で意見を交わすゲナディー(右から2人目)ら牧師たち(1月11日) TAKASHI OZAKI

ドネツク州スラビャンスクのアパートで仮眠を取った私たちは翌朝、雪と氷に覆われた道を走った。かつての主戦場だったドネツ川の橋は崩落したままで、仮設の橋を渡ることになった。前日の最低気温は氷点下14度。川の表面は凍りついている。

昨年10月にウクライナ軍が奪還した街、リマンに入った。砲撃で屋根が吹き飛んだ家やガソリンスタンドが目に付く。市街戦の最中は連日60人から100人のウクライナ兵が命を落としたという。車の音を聞きつけて、地下に避難していた住民たちが出てきた。ゲナディーが1人の少女を見つけて歩み寄った。

「こっちに来てごらん。サンタクロースのおじさんがいるよ」

体重150キロの牧師に連れられて、小柄なナースチャ・カローケナ(6)がピックアップトラックの所に歩いていく。防弾ベストとヘルメット姿のアレキサンドルが箱を選んで手渡した。ナースチャは「スパシーバ(ありがとう)」と言ってほほ笑んだ。

彼女について集合住宅の地下へ下りていった。通路の一番奥、右に3回曲がったところにナースチャの家族がいた。避難生活が長期化しているため、所狭しと家財道具が置いてある。ベッドにテレビ、奥には簡素なキッチンもあった。

「何をもらったの?」と父のコースチャ(39)が声をかける。ナースチャはプレゼントを取り出すのに懸命だ。祖母のナージャ(68)は昼食用の芋の皮をむきながら孫の様子を見守っている。

戦前2万2000人ほどだったリマンの人口は現在約1万人。そのうち子供は700人ほどだという。箱の中から4本セットのペンを見つけて、じっと眺めるナースチャ。ここから十数キロ東にロシア軍の支配地域があり、砲撃は続いている。学校は閉鎖されたままで、このペンを使って授業を受けることはかなわない。

親ロシア派住民が多く残る街

後にウクライナ軍が撤退を表明する、ソレダールを含む東部戦線。昨年9月のハルキウ州解放によって勢いづくかと思われたウクライナの進軍は足踏みし、一部で後退すら余儀なくされている。なぜなのか。

理由の1つとして指摘されているのが親ロシア派住民の存在だ。私たちは次に訪れた街で、彼らの思いを間近で受け止めることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、テヘランに新たな攻撃開始 イラン「ミ

ワールド

米、中東に追加部隊派遣へ 海兵隊員ら数千人=当局者

ビジネス

FRBウォラー理事、利下げ主張撤回 原油高でインフ

ビジネス

ボウマンFRB副議長、年内3回の利下げ見込む 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 10
    将来のアルツハイマー病を予言する「4種の先行疾患」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中