最新記事

シリア

残酷な内戦と大地震に揺さぶられて...シリア援助に見る国際社会の重要な課題

Trapped by Assad

2023年2月14日(火)11時40分
チャールズ・リスター(米「中東問題研究所」上級研究員)

人道的義務に則した援助を提供するのが、責任あるやり方だ。災害や紛争に起因する苦しみを防止・改善するために行動する。この原則より優先すべきものはない。ダマスカス経由の援助提供に際して既に設けられている厳格な条件を不問にするなら、シリアの現体制の常態化を意図しないまま招く恐れがある。

シリア政府に人道的措置は期待できない。内戦勃発後、北西部にある病院を攻撃から守るため、シリア政府の同盟国ロシアに各病院の位置を伝えることで国際社会は合意した。だが位置情報は直ちに攻撃目標情報に転化され、リストに掲載されていたほぼ全ての病院が爆撃された。

結局のところ、シリア政府は欧米からの支援を拒否し、墓穴を掘る可能性のほうが高い。それでもアメリカと同盟国は、今回の悲劇のより幅広い文脈を見失ってはならない。

追加支援が認められた場合には、国連が精査した担い手によって、事前に定められたコミュニティーに援助が届くよう、厳重な措置を講じる必要がある。それでも、国連の調達資金の4分の1近くが制裁対象者に流れている現状では決して万全とは言えないが、国連はこうした状況を必要悪と受け止めているようだ。

最後に、シリア政府が援助を拒んだり、あり得ない支援条件を課すならば、今回の危機がもたらす深刻な結果を明確に認識する必要がある。

地震前、シリアは経済崩壊や人道危機、解決困難な政治的・民族的・宗派的不安定のどん底に落ちかけていた。問題の根本的要因である現体制は、譲歩する姿勢を全く示していない。シリアから欧州への不法移民は昨年、100%増加した。大地震の破壊的な影響によって、その数は今春、さらに急増するだろう。

国際社会はあまりに長い間、その場しのぎの対応を続け、根本原因に目を向けず、それどころかシリアそのものを無視してきた。そんな怠慢は今すぐ、終わりにすべきだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中