最新記事

シリア

残酷な内戦と大地震に揺さぶられて...シリア援助に見る国際社会の重要な課題

Trapped by Assad

2023年2月14日(火)11時40分
チャールズ・リスター(米「中東問題研究所」上級研究員)

シリアの被災地への援助は、閉鎖された越境地点であるバブ・アル・サラムやアル・ヤルビヤを経由すれば可能だろう。過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで、アメリカと手を組むシリア民主軍は、米軍兵士約900人が駐留する北東部からの支援活動を促進すると約束している。

できることは数多くある。だが実現するには、本気でやらなければならない。国連の既存の越境援助体制の復活を待っていては、さらに多くの人命が失われるだけだ。

国連の支援活動は極めて複雑な取り決めで、大掛かりな事務手続きを伴う。リスク回避的であり、体制側の圧力の影響を受けやすい。そもそも、地震で自前の輸送体制がダメージを受けたなか、緊急援助を率いるには不向きだ。

選択肢は1つしかない。トルコの協力を得て、アメリカと同盟国が指揮を執る単独型の取り組みだ。

シリアでは、政府支配下の北部アレッポや中部ハマ、地中海岸地域でも緊急援助が必要になっている。最大級の対シリア人道援助国である欧米諸国は、首都ダマスカス経由の国連の支援活動に中心的役割を果たせるはずだ。イラクやアルジェリア、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)も追加緊急支援を提供している。

地震前、シリアの政府支配地域は悪化する経済崩壊の影響にあえいでいた。原因は、焦土作戦的な生き残り戦略を展開する現体制だ。2019年のレバノンの経済危機、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、同盟相手のイランの経済低迷も拍車をかけた。国内で高まる圧力や不満に直面していたアサド政権は、大地震で窮地に追い詰められている。

シリア政府は国際社会に支援を要請している。同国のバッサム・サバー国連大使は地震発生当日、あらゆる援助を歓迎すると記者会見で発言。ただし、いずれもダマスカス経由でなければならないと条件を付けた。反体制派支配地域への越境援助は事実上、認めないと示唆するものだ。

国際社会の重要な課題

越境援助によって全ての人に支援を届けるという長年の方針を、国際社会は捨ててはならない。ダマスカス経由の援助の一時的拡大は検討すべきだが、シリア北西部への援助が認められた場合に限る。

シリア政府はこの約10年間、人道援助を都合よく操り、流用・盗用し、無効化し続けてきた「負の実績」がある。不当な為替レートを国連に押し付け、援助金1ドルにつき半額を着服して巨額の稼ぎも手にしている。緊急事態の今であっても、こうした問題を増大させてはならない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中