最新記事

イギリス

「EU離脱を後悔」──人手不足、光熱費1000%上昇...止まらない英国の衰退

A Broken Britain

2023年2月13日(月)08時06分
リズ・クックマン(ジャーナリスト)

2016年にブレグジットを問う国民投票が行われたとき、離脱派は、EUから「主導権を取り戻す」と主張したものだ。

だが、IMFが1月末に発表した世界経済見通しによると、イギリスは今年、主要国で唯一マイナス成長に陥るとみられている。戦争にかかりきりで欧米諸国の経済制裁を受けているロシアよりも、成長の見通しは悪い。

20年1月31日にEUから正式に離脱してから3年、イギリスは一体何の主導権を取り戻したのか、多くの人が考えあぐねている。

ブレグジットにより、国内外の企業では事務作業やコストが大幅に増えた。貿易障壁の復活で輸出入は急激に落ち込み、投資も減った。労働力が不足し、物価が上昇した。

英政府の財政運営を監視する予算責任局(OBR)によると、長期的にはイギリスのGDPはブレグジットによって4%落ち込む見通しだ。総生産額は毎年1000億ポンド、公的収入は400億ポンドずつ減っていく計算だ。

ロンドンは世界有数の金融センターだったが、ブレグジットにより、金融業界の専門職はごっそりパリ(とヨーロッパの他の都市)へと移住していった。このためヨーロッパの金融の中心というシティーの座は危うくなっている。海外直接投資も、10年から21年にかけて4%減った。

だが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の報告書によると、長期的に見てブレグジットの最大の打撃を受けるのは家計だ。イギリスでは19年からの2年間で、食品価格が平均210ポンド(約3万3000円)上昇した。その痛みは低所得者ほど大きくなる。

一方、1707年からイギリスの一員であるスコットランドは、イギリスからの独立を問う2度目の住民投票の準備をしている。2016年のブレグジットを問う国民投票で、スコットランドでは有権者の62%がEU残留を希望したのだから無理もない。

16年当時、イギリス全体では52%が離脱を支持したが、今は違う。調査会社ユーガブの最近の調査によると、EU離脱は正しかったかとの問いに対して、イエスと答えた人はわずか34%で、54%がノーと答えたのだ。

それなのに、EU離脱を推進した保守党は政権を握り続けており、相変わらずブレグジットこそが成長への道だと主張している。野党の労働党も、ブレグジットが英経済にマイナスの影響を与えることを、公には認めていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中